第13話 レヴィアタン峡谷の前哨戦

 ガッシィィィン!

 という金属音が響く。火花が散ったかのようにも見えた。

 

「うぉぉ!?」

 長身の傭兵の男が両手剣で相手の攻撃を受け止めていた。

 相手はボロ布をまとった犬系の亜人コボルトだ。


 小柄ながら湾曲した大きな刀を振り回している。


「小せぇのに強いぜこいつら!」

 長身の傭兵の男が体当たり気味にコボルトを吹っ飛ばした。


「おいっ魔術師のおっさん何とかならないのか」

「君らが怪我をしないように防御魔法を唱えているんだ」

 ぶつぶつと詠唱しているのが茶色い麻のローブをまとった男。


「ええい!」

 鎖帷子の上に騎士風の上衣サーコートを着込んだ赤毛の女性傭兵が長剣で助太刀する。

 

 刀を構えたコボルトは6〜7体だろうか。

 錬金術師フィリップが雇った討伐隊の一行は街道から脇道に入り、レヴィアタン街道に向かう途中、茂みで急に襲撃されたのだった。

 

 それをフィリップはぼうっと眺めていた。

「うわーこれ大変ですよねぇ」

 弟子のクルエラがフィリップがかぶった深紅のマントの端をつかんでいる。


 荷馬車の上に仁王立ちして2人を守っているのは勇者エレノアだ。

 細身の剣を抜き放ち、近寄ってくるコボルトを警戒している。


「やっべぇこれは押し込まれちまう!」

 傭兵の男が焦ったように叫んだ。

「しゃべっている暇があったら攻撃!」

 赤毛の女が叱咤するように言う。

「しかしよぅ、戦化粧しないと気合が入らないんだもんよ」


 その間にもコボルトは包囲の輪を狭めてきたようだった。


「どいて」

 荷馬車に座っていた漆黒のマントに魔術師風のとんがり帽子をかぶった人物が立ち上がった。ずいぶんと小柄だ。手に何も持っていない。すっとコボルトの群れを指さす。

トニトゥルスよ!」

 その人物が指さした先に閃光が走った。


 と同時に同時にドラを鳴らしたような大音響が響く。


「うわーこれ本当に魔法だ、初めて見た」

 とかつて日本人・新井翔也であったフィリップはぼそりとつぶやいた。


 話はまた少し遡る。


 トルヒーヨから資金を得たフィリップはさっそく冒険者ギルドに出かけて今回の「深淵の魔道士」討伐を仕事として請けること、何人か人手を借り出したいことを伝えて斡旋を頼んだのだった。


 冒険者ギルドは街から少し外れた……城門近くの何やら元・鍛冶屋らしき建物を改装したところに入居していた。外に放置されていた少し錆びた金床やハンマー、溶鉱炉がそれを物語っている。


 それからしばらくして数人の傭兵……冒険者が紹介されたのだった。


 冒険者ギルドから少し離れた酒場……というよりもまさにフィリップたちが宿泊している"眠るクジラ亭"だ。一階のテーブルには冒険者ギルドからの紹介という人物たちが集まっていた。


 長身、鉄の小札を紐でつないだ鎧を着込んだ総髪の男。両手剣を背中に吊り下げている。

「ハミッシュだ、よろしくな」

 無骨な顔に似合わず陽気なウィンクをする。老けて見えるが案外若いのかもしれない。


「まじない師のロークだ……こちらは傭兵のレジーナ」

 茶色い麻のローブを着込んだ中年の男がそう言った。短剣と短い杖をベルトに差している。

「レジーナよ」

 赤毛を短めに切りこんだ騎士風の服装をした女性傭兵がレジーナというらしい。

 片手でも両手でも扱えるバランスの良い長剣を腰の帯革にぶら下げている。

 彼女は非常に小柄な人物の背中を押した。漆黒のマントにとんがり帽子、魔術師っぽい雰囲気だが、帽子の下の顔は幼く見えた。


「子供じゃないのか?」

 フィリップは思わず言った。


「まぁそう見えるわよね」

 レジーナはため息をついた。


「この子はステラ……話せば長くなるけどエルテシ王国の大図書館で見つけたハイエルフよ」

(エルフ?)


 フィリップはまじまじとステラを見た。

 金色の瞳にぴんと突き出た耳。確かに子供っぽく見えるが、これはファンタジー小説に出てくるエルフだ、とフィリップは思った。


「そうか……」

 日当銀貨二枚で集められるのは、重武装の戦士とかではなく、こういうちょっとキワモノになるかも、とは冒険者ギルドの係員が言っていた。


 とはいえ前衛2名に、魔道士系が2名、勇者エレノアもいるので立派なパーティだ。

 エレノアは昨日、買い付けてきた食料をみて、早くも干し肉とかをかじっていたのでもう少し食料がいるのではと心配になってきてはいた。


(こんな数人で1週間くらいの冒険でも結構かかるんだなぁ)

 大人数を雇えばいいという話も小説などで読んだ記憶があるが、あまりに大人数すぎてもそもそも得られる報酬に見合わないし、日当もかかる。そうなるとこのくらいの人数で遂行できる仕事クエストを探すのが最適解ということか。


「錬金術師のフィリップです。ケンカ弱いのでおまかせします」

「弟子のクルエラです、ちょっとだけ水を浄化したりする以外は何もできません♪」


「よろしくぅ!」

 ハミッシュがばんばんとフィリップの背中を叩いた。

 ローク、レジーナ、ステラは何やら顔を見合わせている。


 目的は討伐そのものではないとはいえ、とんでもない珍道中になりそうな予感をフィリップは感じていた。

 

――フィリップの現在の所持金

特に変化なし


金貨33枚(2,640,000円相当)

銅貨5枚(2,000円相当・財布)

全部が黄金色になった小刀




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