第11話 黄金の出所と冒険者ギルド
「うーん困ったなぁ」
フィリップはそう呟きながら独り、夕刻前の帝都レザンブロンの大通りを歩いていた。
海風が強くなる時刻になるとかなり寒くなる日もあった。
「困った困った」
先日、トルヒーヨの店で金に換えたスプーンを売った金で研究費の登録費用は用意できた。しかし弟子のクルエラが手続きのために各所に回ったところ、帝都の国務院や元老院の許可証など、細かいところで手数料がかかるようになっていたそうだ。
申請のための羊皮紙も安くはない。
金貨3枚+少し余裕を持たせないとならないのだが、この間のトルヒーヨの店で言われた通り問題は換金だ。ある意味で黄金に変えられる原材料は無尽蔵なのだが、黄金を持っていたところで出どころを問われれば
「まさかこういうところが問題になるとは……」
無尽蔵の黄金でシンプルにお金持ち!というのは案外難しいようだった。
ガラガラという音と共に女性の笑い声が近づいてくる。
2頭立ての小柄だが立派な木細工が彫り込まれた馬車が対面からやってくる。
御者もしっかりとした身なりで、小脇にラッパ銃を抱え、座席では乗客だろう、2人の着飾った貴族の女性が笑い合っている。
この世界バージョンの"盛り"とでもいうのだろうか、彼女たちは白いそびえるような高さのウィッグをかぶり、派手目の装飾だ。宮殿帰りなのだろうか。宝石細工がきらきらと煌めいた。映画か何かで見たことのある服装に似ていた。
一方で、道端に座って、金属の皿をかかげて物乞いをしている傷病兵もいる。
「ないところにはないし、あるところにはあるんだけどなぁ……出どころなぁ」
クルエラに対しても、そろそろ事実を明かしておかないと、いくら何でも「蔵を開けたらまだまだ在庫があったんだ」は通用しないだろう。
考えにふけりながら歩いていると、大通りの交差点のあたりから何やら太鼓や笛の音が聞こえてきた。
「何だ?」
「おっ錬金術師殿か」
ひょいっとエレノアが出現する。
「うわっ!」
「姿をみかけたものでな、散歩か?」
甘い匂いがする。香水とかではない。
何か食べ物の匂いだ。
「ん? これか? 絡まれている店主を助けたらくれたんだ」
彼女は小脇に道端で売っている焼き栗の入ったカゴをかかえていた。
「あれはなんだい?」
「ん?」
エレノアも楽器の鳴る方向をみる。
見ると、わらわらと立て看板の前に人が集まっている。
その前で数人の男たちが太鼓を鳴らしたり笛を吹いたりしている。
「あまり見かけないか、聞いてみようか?」
「そうだな」
エレノアは人だかりのほうに行き、傭兵風の男と2〜3会話をした。
彼女はすぐに帰ってきた。
「あれは冒険者ギルドの依頼の立て看板らしい。最近多いと言っていた」
「冒険者ギルド?」
「昔は"口入れ屋"とも言ったんだがな」
「ほうほう」
「帝国が西風の魔王との戦いで消耗していく中で、軍に余裕がないので報奨金を出して傭兵とか冒険者に仕事を斡旋してるみたいだ」
「仕事なぁ」
要するに
「要するにNPCから受注できるお使いクエストみたいなものだよな……」
「何か言ったか?」
「いや……」
「私も立て看板を読んできたが、危険度が高いわりに報酬が少なくてな」
エレノアは焼き栗の切れ目から器用に皮をはずして口に放り込んだ。
「あつっ……あふあふ」
「それで?」
「あふあふ」
「まさか急に焼き栗を食い出すと思わなかったよ」
「"深淵の魔道士"とやらを倒したら報酬金貨5枚、それに深淵の魔道士がかかえている宝とかそういったものは全部もらっていいそうだ」
「結構良い報酬だな」
「いや……この手の魔道士はたいてい魔物なり不死の怪物なりをかかえているからな、人手もいるし、人数を動かすとなると食料や水、移動も手間取る。深淵の魔道士とやらの宝物もあまりアテにはできないぞ」
エレノアが肩をすくめた。
「経験があるのか?」
「あぁ、何回かこの手の討伐を手伝ったが、少々の銀貨をもらえるくらいで大した報酬にはならないな。宝の換金も手間だし、だいたいは変な魔法石とかクリスタルとかがちょっとだしな」
エレノアの話にふとフィリップはある思いつきを得た。
「どうした? 錬金術師殿」
「これはいけるかもしれない……この仕事、受けよう」
「んあ? ま、まぁ私なら何とか倒せるかもしれないが人手も多少いるぞ?」
「大丈夫だ、何とかなる」
フィリップはようやく突破口を見つけた思いだった。
――フィリップの現在の所持金
特に変化なし
金貨3枚(240,000円相当)
銅貨5枚(2,000円相当・財布)
全部が黄金色になった小刀
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