第6話

中矢の夢は日に日に小説家イーターに侵されていった。最初は小説の題材になるような夢を見ていたのだが、徐々に小説家イータの足音が忍び寄る。専らそれは逃げる夢に変貌していった。

中矢は考える「逃げる、逃避行、そうだ小説は金を強奪して、2人で散財しながら逃げる物語にしよう」と中矢は決意する。



とわ子とジョージは休日に銀座の喫茶店でお茶をしている、ジョージはブレンド、とわ子はミルクティーを注文した。

「ジョージ私写真館で色々な服を着て写真がとりたいなぁ」ととわ子は言う。

「服はどうするの?」とジョージが言う。

「それは誰かがプレゼントしてくれるにきまってるじゃない」ととわ子は言う。

「そっかよかったね」とジョージはそっけない。

「私はその人と結ばれるの」ととわ子は高揚気味に言う。

「…」束の間の沈黙。

「ジョージに期待してるの私」ととわ子は仄めかす。

「俺そんな金もってないよ」

「そっか~こまったなぁ」

「閃いた今度用意しとくよ」

「さすがジョージ楽しい人」



中矢は夢の中で逃げまくっていた。警察に終われている。確かな記憶がある。確かに人を殺した記憶があったのだ。とにかく逃げて逃げて逃げる。パトカーが数台町を巡回している。警察官に見つかった。走る走る走る、袋小路に追い詰められる。警察官は小説家イーターに変形していく。

中矢は絵も言われぬような絶望にうちひしがれ目を覚ます。

寝間着が汗でぐっしょりだ、「これでこの夢を見るのは何回目なんだろうか?」と中矢は思う。

ランタンをつけ、執筆机に向かい「オーミステイク」の続きを書きはじめる。



今日は日大職員の給料を銀行から引き下ろす日、ダットサンで向かう3人のメンバーにジョージは含まれていなかった。あまり信用されていなかったのだ。

3人は銀行に到着し、2人が金を集金袋に詰め引き返してきた、その袋にはなんと190万円が入っている。

2人が荷台に金を詰めるとジョージが現れた、「ようジョージ」と運転手が言うとジョージは助手席に乗り込んだ。

「車出せ」とナイフをちらつかせてジョージが言う。運転手は車をだす、2人は呆然と取り残される。

空き地に到着した。

ジョージは車を降り荷台を開ける。運転手も降りてきて揉み合いになる。

「オメーなにやってんだ!」と運転手が言う、「うるせー金が必要なんだよ」とジョージ、運転手はジョージと集金袋を引っ張りあう、ジョージがまたナイフを手にした、その隙に運転手は集金袋を引き奪う、その首もとにジョージはナイフを突きつけた、運転手は動転し集金袋をはなす、ジョージは集金袋を奪い一目散に逃げる。

逃げる、逃げる、逃げる、鼓動が加速する、アドリナリンと恐怖の入り交じった興奮、走る、走る、走る、何かに追い付かれないように、何かを消し去るように走る。



中矢は筆を置きしばし呆然とする、なにかとてつもなく悪いことをした気分だった。

そして教授の娘の写真を取りだしマスターベーションをした。ほどなく中矢は寝てしまう。



興奮が興奮を呼ぶ、抗議抗議抗議、市役所に群衆が押し寄せている、みな口々に待遇改善を主張している。興奮は頂点に達しようとしていた。

警官隊が民衆を警棒で殴り付ける。中矢は警官隊と揉み合っている。ダーンと銃声が轟いた。中矢の目の前で崩れ落ちる警察官、血が広がっていく、中矢は警察官を売ってしまった。

恐ろしくなって群衆を掻き分け、中矢は逃げる逃げる逃げる。いつもの悪夢だった。

パトカーが数台町を巡回している。警察官に見つかった。走る走る走る、袋小路に追い詰められる。警察官は小説家イーターに変形していく。

「グギギギィ、なかなか痛かった」と小説家イーターが言う。

「お前も人殺しだなぁ、もっと恐怖しろ」と小説家イータが言う。

中矢は金縛りに在ったように動けなくなる。

中矢は小便を漏らしてしまう。

「グギギギィ、グギギギィ、グギィグギギギィ、うめぇうめぇ」小説家イーターは念を貪る。

なすすべのない中矢はうずくまってしまう、すると人のけはいがした。顔をあげると教授の娘が立っていた。

「大丈夫ですか?」と教授の娘は言う。

「はい」と中矢は言う。

「グギギギィ、そうか、じゃあまだまだだな」と教授の娘は小説家イーターに成ってしまう。

伝説の猫が現れた。後方から駆けつけ、中矢と小説家イーターの間に入り、毛を逆立てて「シィー」と小説家イーターを威嚇する。

小説家イーターは嬉しそうに「旨そうなのが来た、クキキィ」と53個ある口元を歪ませる。

伝説の猫をどんどん小さくなっていってしまう。毛を逆立てて「シィー、シィー」と言いながら大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

小説家イーターは苦しそうに縮んだり大きくなったりしている。

伝説の猫が小さくなった小説家イーターに飛びかかった瞬間、小説家イーターは膨張し、53個ある口を広げると53個のくちは1つの大きな穴になり、伝説の猫を飲み込んでしまった。



中矢は汗でグッチョリとなり目を覚ます。下宿の朝御飯の時間だった。

フラフラしながら食堂に向かう。白黒テレビがニュースを伝えている。なんでも世界中の猫が凶暴化したらしい。中継では近所の野良猫が映る、リポーターは攻撃され負傷し映像がとぎれた。

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