第3話

巨大な水槽の中で培養液に浸かり、小説家イーターは育っていた。

「グギギギィ」小説家イーターはうめき声をあげる。彼は脳オルガノイドであった。水溶液には音読された様々な小説の音声が流れている。

彼は日に日に巨大化する、今のところ目は17個あり、耳のような穴は32個ついていた。全体としてはぼこぼこの黒みがかった100cmぐらいの球体で、口は耳と判別のつかない穴として57こついている。

「グフゥ腹がへった念が喰いてぇ」小説家イータは獰猛なのだ。

中矢の父・為実は満足そうに慈しむように小説家イータを見つめる。

太宰治は小説家イーターに殺られてしまった。新聞の発表では女性と無理心中で川に身を投げたことになっていたが、その実日々小説家イーターに念を喰われていたのだった。

太宰は創作意欲がまったくわかないことに焦りを感じていた。毎夜恐ろしい夢を見る。グロテスクな黒い球体が現れ気力を吸いとってしまうのだ。

追い詰められた太宰は、付き合っていた女性と自殺しようと決意する。

川に沈み遠退いていく意識の中にもやつは現れた。

「苦しい」太宰は後悔しもがく。

「なんとか生き延びたい」と全意識が先鋭化する、死の瞬間の一点に待っていたのは小説家イーターだった。

「やっぱ全部がつまった念はうめぇ」と彼は呻く。

小説家イーターは、政府の要請によりまくし上げる小説家を選択される。ちょうど朝鮮戦争が始まっていたので資本主義を建言する作家が選ばれがちである。 中矢の父・為実は中矢を鍛え上げようと、中矢に景気のいい小説を書かせ小説家イーターがまくし上げる小説家の選考に組み入れようとしていたのである。


中矢は小説を書き進める。ちょうど教授の娘の写真が下宿に届いていた。

「結構かわいいな、紹介してもらえば良かったかな」などと中矢は思う。


染野とわ子はマネキンの仕事に出掛ける、歩いて15分の化粧品会社に到着すると、制服に着替える更衣室で同僚と彼氏のことを立ち話する。

「ジョージは激しいのよ」運転手はジョージと呼ばれていた。

「ムキムキだもんね」と同僚が応じる。

「ダンスホールで声かけられた時から強そうと思ってたけど」とわ子とジョージは銀座のダンスホールで知り合った、同僚も一緒にいた。

「学生ちゃんはどうなったの?」ふたまたの一方の方である。

「あージョージが別れてくれって言ってるから」ととわ子

「とわちゃんはモテていいわね」

「でも親がうるさくて息苦しい」ととわ子が言う。

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