偽りの本心

腕に『荊棘』を発現させて。

オレは、伊藤へ向かい奔る。

手には槍を。心には殺意を。そして思考は冷静に。

伊藤に向かって、オレはナイフを投げる『映像』を見せた。


「これが……あの・・・が受け継げなかった異能か!!」


嬉々として伊藤がナイフを金棒で薙ぎ払う。

しかし、ソレはただの虚像。

次に、杭を地面から出してヤツを貫く映像を見せた。


「ウグッ……やるじゃないか!!」


次は視覚のみならず、痛覚も与えながら。

オレは、ヤツへ向かって槍を刺突させる。

槍の穂先は伊藤の心臓へと一走りするが、伊藤は穂先を掴んで、刺突を防ぐ。


「痛いねぇ……でも、さっきのよりはマシだよ!!」


そのまま、穂先を掴み上げてオレを地面に叩きつける。

背中に響き渡る鈍痛を堪えながら、懐にあるナイフを投げる。

動揺を見せることなく、伊藤がナイフを噛んで受け止め、地面へと吐き捨てた。


「君のその異能は、感覚の調節に難がある。

ある程度の痛みに慣れてしまっている僕にはあまり通用しないんだよね」


「それはどうかな」


───────今までのは全て映像、オレは荊棘を出して自分の映像を見せ続けて後ろに回り込んでいた。

そのまま、後ろから伊藤の心臓へ一突きした。


「───────あっぶねぇ!?」


しかし、獣的な直感が働いたのだろう。

伊藤がその一突きを回避しようと横へ跳躍して運良く自身の肩へと刺させるのだった。

……クソ、あともう少しだったが……。

しかし、焦る必要は無い。

今ので確信した、オレはもう既に伊藤よりも遥かに実力が上だと。

そのまま伊藤を引き寄せて、オレは伊藤の襟を掴んで地面へと投げつける。

痛そうに顔を歪める伊藤。

その顔を、思いっきり踏みつけた。

踏み潰してやろうかと思ったが、それはダメだ、勿体ない。

こいつには……苦しんで、後悔して死んでもらわないと気が済まない。

伊藤が抵抗しようと、金棒を振るう。

その腕の手首を刺し穿ち、切り払う。


「ぐぁぁぁぁぁぉぉぉぁ……ッ!?!!」


遠くへ蹴り飛ばしてやり、次は反対側の腕の手首を刺す。

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度よ何度も。

肉体を削いで、骨をむき出しにしてやる。


「オイ、未音……!

惨すぎる、それにさっさと殺すべきだ!!

敵の増援が───────」


「すいません、無理です」


即答する。

……あの時の光景が蘇る。

細切れにされた少女、ミンチにされた少女の父母。

自然と手に力が篭ってしまい、柄がミシ、と悲鳴をあげる。


「……コイツを痛めつけて殺さないと気が済まない、それだけの事をコイツはしたんだ!!

友紀奈を……あんな、あんなに優しい子をコイツは細切れにして殺したんだ。

なぁ? 答えてくれよ。

楽しかったのか? あんな小さな子、殺す時にどうも思わなかったのか?」


「それは今、お前が僕に対して思ってることと同じだぜ?」


……は?

コイツは、何を言っているんだ?

殺意が倍増する。伊藤の笑みがさらに深くなる。

嬉々として、殺人鬼が答えるのだった。


「───────復讐さ。僕は仲間を橘花楓季に殺された。

その復讐に、アイツの娘を、嫁を殺してやった。

お前、今は僕を痛めつけて悦を感じてるだろう?

ほぅら、同じだろう?」


「黙れよ。お前みたいな屑と一緒にすんな。

そもそも、お前らの組織が人殺しの組織だったから楓季さん含めた亜人種課の面々が掃討したんだろうが。

自業自得だってんだバカが……!!」


腹部を貫く。

血反吐を吐きながらも、伊藤は笑みを絶やさずに答えるのだった。


「いいや、一緒だねぇ。

そもそも僕が猟奇殺人者になったルーツを知ってるのかい?

……嫁と、娘を殺されたからだよ亜人種課のヤツらにさァ」


瞬間、ピタリとオレは動かなくなってしまった。

……こいつの始まりが、復讐?

なら、オレはこの屑と同じ……になってしまうのか?


「”足止めご苦労、舞台装置“

”後は、主役の出番だ“」


その機械仕掛けの声を聞き、その方へ振り返る。

同時に───────オレの背後から腹部にかけて、長刀が深く刺さっていた。

刺したのは当然、道化師。

世紀のイカレ野郎が、眼前に立っていた。

その仮面を外し、素顔を現す。

そこには───────光さんの想い人だった男が立っていたのだった。


「やぁ、源。

君を、最後の勧誘をしに来た」


素顔を晒したのは、真意を話す事を証明するためなのだろう。

淡々と、オレの言葉を待つことなくソイツは明かすのだった。


「ボクは、この禁呪……『変化』を使って鬼という一つの存在を消したいんだ」


その発言に、オレは思わず目を見開くのだった。

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