表明

「───今、言うのは違うかもしれないけどさ」


 ふと、蒼龍が口を開く。

 こういう真面目な場面で珍しいな、なんて思いながらオレは促した。


「なんだ?」


「実は来月、結婚式を開くんだ。

 相手は鬼の女性でな、妊娠もしている」


 ───それは、あまりにも、パンチのある、告白だった。

 ……え、妊娠? いつから?

 頭が真っ白になったが、すぐに祝わなければ、と切り替えて言葉を捻り出した。


「お、おめでとう……彼女、いたんだな」


「いや、許嫁さ。

 俺らの家は鬼との交配を積極的に行うんだ。

 一つは、鬼と人とのハーフにはたまに呪変臓を持つ者がいる、それを作り出すためだ。

 まぁ、鬼の血が完全に混ざる訳にはいかないんで五代に一回のペースでの鬼との交配だがな」


 ……なるほど、身体能力の上昇等もあるとは思うし、中々、理にかなっている。

 因幡家も、同じことが出来ればよかったのにな、なんて思ったが、これからそういうしきたりを変えるようオレらが頑張ればいいか、なんて考えてみた。

 実際にできるかは分からないが、足掻くだけ足掻いてみたい。

 藤也が許されないとしても、次の世代から変わっていければ、藤也も幸せだろう。


「二つ目は、鬼との交流を深める為だ。

 一応、ウチの家系はまぁ、弟といい親父と言い女を囲いたがるダメなヤツらではあるが、鬼に対する態度はかなり緩い方だったしな」


「……そういやさ、蒼龍はいつからその、処刑人って役目を?」


「初めて殺害したのは六つのときだ」


 その、冷淡とした口調に思わず固唾を飲み、言葉を喪った。

 ……恐らく、蒼龍はまだ藤也の殺害を行おうと思っているのだろう。

 それは、使命とかでは無い、何かが蒼龍をそう決意させているんだ。

 気にはなるが、聞かない方がいいだろう。

 万が一、藤也が危なかったらオレが助ければいいだけだ。


「……話、戻すけど」


 でも、せめて。

 せめて、これを覚えてくれて、蒼龍が躊躇するのを期待しよう─────。


「藤也も、結婚式に参加出来たらいいな」


「…………まぁ、そうだな。

 うん、参加出来たら、俺も嬉しいよ」


 どこか心苦しそうに答える蒼龍。

 その、直後にオレの携帯が着信音を鳴らす。

 携帯には、楓の電話番号が刻まれていた。

 なんだろう、楓はなんの用でこの時間に?

 通話に応じ、楓に要件を訊ねる。


「もしもし、どうしたんだ楓?」


『LINEに送るけど、藤也くんに似た人が鬼を殺害してる動画がネットに出回ってるけど、これって……?』


「なっ………………!?」


 急いでLINEを確認して、楓が送ってきた動画を見る。

 そこには、確かに藤也らしき……否、藤也本人が嬉々として、どこか艶めかしさがある表情で鬼のことを残酷にスプラッタしている動画が流れていた。


 ……とりあえず、楓には悪いが誤魔化すか?

 だが、彼女は勘が非常に鋭い。

 恐らく、藤也なのではないかと思って、そして深く交流のあるオレに訊ねたのだろう。

 それに、特定されるのも時間の問題だ、ここは─────


「……それを、確認する為に藤也の入院している病院に向かってるんだ。

 藤也は入院しているから、そんなことするのは不可能なハズだし、それに……呪術で藤也に化けている可能性もある」


 一応、彼女は呪術等の存在は把握している。

 基本、呪術の存在は一般人には隠されている。

 理由は、呪術というのは誰でもすぐに扱えるが、ソレを知られては悪用される可能性があるからだ。

 だから、亜人種課や偉い方、そしてその家族達しかその存在を知らない。

 しかし、楓が知ってると言ってもそれは抽象的なイメージしか出来ないだろう。

 少し狡い誤魔化し方だが、今はそれで収めたい。


『……なら、因幡君に変装? してる人に気を付けないとね。

 油断してたらグッサリと刺されちゃいそうだし』


「勿論、気を付けるよ。

 とりあえず、情報ありがとうな楓」


「どういたしまして」


 そう返して、楓が電話を切る。

 蒼龍にも聞こえるようにスピーカーに設定していたので、しっかりと聞いていた蒼龍の顔は青ざめていた。

 ……オレが予想するに。

 もし、これが玄人くろとさんの目に入ったらマズイ。

 あの人ならば、即座に動けてしまうのである。

 現に、彼への挑発で似たような動画を送ってきた鬼がいたが、ソイツは一時間以内に玄人さんに殺された。

 どうやら、呪術にも色々種類があるみたいで、玄人さんはその中でも群を抜いて上位の存在である”禁呪“というのを扱えるらしい。

 その中に瞬間移動出来るモノがあるみたいで、それを使って犯人の元に着いたらしい。


 でだ、藤也の現状は、ネットに彼の恐ろしい所業の動画が流れているというのが現時点で分かる事だ。

 玄人さん自身、忙しい身分なので恐らく見る、知るまでの時間は相当あるハズで、それまでに藤也を捕まえないと彼が玄人さんに殺害される可能性がある。

 ……急がなければ。

 走ろうとするオレを、蒼龍が肩を掴んで止める。


「待て、まだ余裕はある。

 ……玄人さんはこの事を知ってるからな。

 休む前に、玄人さんには受け明けた。

 行ってこいって、受諾してくれたよ。

 だから、先ずは作戦会議だ」


「作戦会議?」


 あぁ、と頷いて蒼龍が藤也の情報を明示し始めた。


「藤也は呪装具の伝巧絶歌という名称のモノがある。

 ソレの力は、装着した者が呪術を使う時、詠唱を省略出来るというものだ」


「呪術の省略?

 でもそれって、可能なのか? 確か、呪術ってのは詠唱を行うことで初めて機能出来るって……」


 亜人種課の訓練校の授業で聞いた内容だ。

 呪術は絶対に、詠唱をしなければならないと。

 それは、相手を呪う為の大事な過程であり、そうでなければ成立しないと。

 確かに、教授はそう言っていたハズ───


「因幡家は元々、有名な陰陽師である安倍晴明の弟子だった家系みたいでな。

 その時に、詠唱ナシでも唱えれる技術を教わったらしい。

 ソレを形にした呪装具が、ソレなわけだ。

 姿はネックレスでな、高校からよく着けてたろ、アレだ」


 蒼龍に言われて、藤也が高校からよくつけていたネックレスを思い出す。

 長方形の、銀の飾りが着いた普通のネックレスと何ら変わらないモノだったが……そんな大事なものだったのか。


「それをつけて戦闘を行う藤也は、まさに大砲そのものだよ。

 それも、いちいち玉を込める必要のない、無限に連射できるモノだ」


「もしそうなら、ヤバくないか?

 そんなモノにどうやってナイフ一本のオレが勝てっていうんだよ?」


「あぁ、本来なら勝ち目はないな。

 しかし、あいつが大砲であれるのは呪力がある時のみだ。

 実は、藤也は呪力量が少ない。

 呪変臓が小さいという証拠だろう、さっき俺とやりあった時にかなり呪力を消耗して、もう殆ど残ってない」


 ……なるほど。

 つまり今、藤也はかなり弱体化してしまっているワケか。

 聞いてる限り、確かに大砲でない、藤也ならば取り押さえれる。

 問題はその後、どうするか……ではある。

 藤也を捕らえた後、オレ達はどうすればいいのだろうか?


 数ヶ月前、オレは幽霊の少女を、被害者でもある彼女を無念を遺したまま祓ったことがある。

 少女の被害など知ったことではないと。

 そう言って祓ったオレに、藤也をどうこうする権利が今更、あるのか?

 自分の身勝手さ、矛盾さに苛立ちを覚える。

 ……でも、それでも。

 大切な人が死ぬ所を、オレは身勝手だと分かっていても、防ぎたい。


 ───友紀奈を、楓の家族を死なせてしまった時のようなことはもう二度としたくはない。


 ……そうだな、未熟な考えだろうけど。

 藤也をどうするか、それは後に決めよう。

 後にして、先ずは藤也を捕まえることだけに集中しようと、オレは決意し直して、蒼龍に顔を向けた。


「情報をありがとう、蒼龍。

 行こう、藤也の所へ」


 オレの言葉に、蒼龍が強く頷く。

 さぁ、藤也を助けに行こう。

 オレたちは、強く地面を踏みつけて、藤也の元へ急ぐのだった─────。

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