衝動

 ───美味しそうな、▉がいる。

 でも、生はダメだ、調理をしないと。

 ……衝動が激動する、行動へと流転する。

 それの足元に呪術を発動させて、爆竹かのような勢いで、ジューシーに焼き上げたそのニクは、とても苦しそうなカオを浮かべながらゼツメイしていた。

 まるでブランド牛のように見えるそれに僕は、口元を垂涎させる。


「───美味しそうだ」


 ふと、呟き、口いっぱいに頬張る。

 ……何故だろう、コレは▉なのに、僕らと似たナニカ、あるいは同じモノなのかもしれないのに。

 なんで、なんで僕は、僕はこんなにも狂ったコトを思考をしているんだ?


 ふと我に返り、戸惑っていると、後ろからコツコツと足音が聞こえる。

 振り向くと、そこにはあの日のヒトガタがいた。

 ソイツに触られた日以降、僕はソレラに対して破壊衝動が訪れるようになるのだった。

 仮面のせいで表情は読めないけれど、どこか嬉しそうな足取りなのが若干、苛立つところではあった。


「“成功、成功。

 因幡 藤也クン。貴方は最高の殺人劇の主人公だ。

 カニバリズム、猟奇殺人、そして大量殺人。

 コレはかの切り裂きジャックすらも凌駕する、史上最低のシリアルキラーとして後世に語り継がれるでしょう”」


 クルクルと手元のステッキを巧みに回しながら、そのヒトガタはますます僕へと近づく。


「“そして、この殺人劇はここで急展開を迎えるのです。

 ───狂った男は突如として、理性を取り戻す。

 そして、贖いを求め友人である青年と殺し合い───その根底の生存本能を刺激され、友人を殺すのです”」


 ゆっくりと、ゆっくりと男が近づく。


 ───ドクンと、なにか胸騒ぎがして、心臓が跳ね上がった。


 逃げなければ、なにか大変なことが起こる。

 僕はその場から離れようと、足を動かす。


「“いけませんよ、殺人劇の主人公、切り裂きジャックの正当な、養殖の後継者”」


 しかし、足が動かない。

 何故か地面と足が引っ付いていて、とてもじゃないが足を動かせなかった。

 ……まるで、接着剤にくっついてしまったかのようなそんな、感覚だった。

 ヒトガタが、迫る。

 その不気味さに恐怖を感じて、僕が呪術を放つ。


 火球はそのヒトガタに向かい、空を走る。


「“貴方には筋書き通りに動いてもらわないと、カレの潜在能力を発揮できません”」


 しかし、その火球は地面が杭状のモノとなり、火球を貫く。

 何も起きていない。そんな余裕綽々とした様子でヒトガタは迫る、迫る、迫る。


「“さて、これにて殺人劇の第二幕です”」


 ヒトガタは僕の頭を掴み───


「“さぁ、慟哭しろ。衝動に流転されろ。切り裂きジャックよ”」


 そう言い、僕の脳に呪力を流し込む。


 ───その瞬間、僕の認識は一気に激変する。


 口の中に広がる、鉄のような味、生臭い匂い。

 そして目の前に転がっているのは、僕が何故か美味しそうだと勝手に思い込んで、殺した───


「“あぁ、ソレは人です。あなたと同じね。

 おやァ? おやおやおやおや?

 人の輪、外れちゃいましたねっ!”」


 面白おかしく言う、この得体の知れないモノの言葉に僕は焼き切れそうな程の慟哭した。


「─────あ、アァ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァァァァァ…………!!!!!!」


 慟哭する僕。

 さっきまで殺していたモノは、僕が、蒼龍との絆を断ち切る要因のモノだった。

 発狂せずにはいられない、絶叫しなければ、それこそ精神が壊れそうだった。

 そんな実に滑稽な姿の僕を見て、ケタケタと非常に嬉しそうに笑う道化師。

 道化師は、次に、未音達の所在を明かした。


「“そういえば、アナタのお友達はアナタのことを捕まえる気満々ですよ?

 ここからそこそこ近い位置にいます、北を約二キロくらい、ですかね?”」


 ───つか、まえる?

 彼らは、そんなことをしようとしているのか。

 こんなに人を、鬼を殺したのに、僕はそれで許されていい器ではない。

 少なくとも殺されなければ、赦されないだろう。

 ……まだ、そんな優しいことを考えているトモダチに感謝を覚えながら、僕はゆっくりと歩き始めた。

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