第2話

愛されず、自由もない。そんなつまらない人生からやっと抜け出すことができたと思っていた。でも私には”愛”も”自由”も誰も与えはしなかった。

2回目は平凡な町娘に生まれた。前世の記憶なんて普通は誰も持っていないことに驚いた。生まれた時から1回目を覚えていた。最初こそ戸惑ったが、だんだんと受け入れていた。1回目の時より自由はあったしそれなりに幸せだった。だが19歳の誕生日の夜仕事から帰っている途中に通り魔に会い、死んだ。

3回目も19歳の誕生日の日に、毒薬で何者かに殺された。4回目も、5回目も同様に殺される。そして9回目の今に至る。



この1回目の人生での課題は

1 なぜ父がすんなりとアイリーンを娘として受け入れたのか?

2 母のことを嫌っているのか?

3 リチャードが言っていた私にしか父を救えないとはどういう意味か?

4 父に毒をもった真犯人は誰か?

5 最後に聞こえた透き通った声は誰なのか?


この5つである。どんなに頭を働かせても分からない、しかも5つ目は死んだ後の話になる。透き通った声の持ち主、その人に会えば私が転生を繰り返す理由や19歳で殺される理由がわかるかもしれない。という結論にいたった。

でもまだ行動ができない、なんせまだ0歳である。この目屋っと”ハイハイ”ができるようになったのだ。意識は大人なのに身体機能が0歳児であるためにうまく言葉を話せない。本当に不便である。「う~、あ、あ、」と声を上げるとリアンが駆けつけてくれる。

「どうされましたか?姫様」

私をベットから抱き上げ優しくあやす。リアンのかわいい笑顔が見える。

「姫様は本当にかわいらしいですね。帝国一ですよ!」

リアンがそう微笑みかける。私にしてみたらリアンのほうがかわいいわよ!とてもやさしいし温かい。やっぱりリアンは私のお母さんみたい。

19回もの人生を歩んできたけど、リアンみたいに優しく温かい母のような存在はいなかった。売られたり、虐待されたり、私に本当に無関心だったりした。

この世界の私の母はどんな人だったんだろうか。私を命がけ産んでくれた人。会ってみたかったな、、

「姫様はルクリア様によく似ておられますね。でも瞳は皇帝陛下に似ておられますね。」

瞳はあの父親のものだ。スカイブルーのきれいな瞳、どうせなら母にすべて似ればよかったのに。冷酷な父から何も受け継ぎたくはなかった。

そういえばアイリーンも同じスカイブルーだったな。白い肌につやのある黒い髪、華奢な体。”ホンモノ”のお姫様だった。”ニセモノ”の私はアイリーンがサート宮に入ったころからメイドに嫌がらせを受けていた。お世辞にも身なりはお姫様とは言えなかっただろう。痩せた体に、血色の悪い顔、つやがなくなってしまったブロンドの髪。でもリアンだけは私を姫として扱ってくれた。最期の最期まで。

リアンを救うためにも、もう一度この国について勉強しなければ!



私が5歳になってやっと字の読み書きができるようになった。

少し歪んでいたが「リアン」と書いてみせたら周りは「天才‼」と声を合わせた。5歳で誰からも習わずに文字が書けたことがすごかったらしい。すぐに英才教育が始まった。前の時は誰からも教えてもらえなかった。教えてもらったのは皇族としての作法とご飯の食べ方だけ。でも今は違う!

私の今世は誰にも殺されずに生き延びること!リアンも絶対に救う!

でも幽閉されているこの状況でどうやって脱出するか、が問題。屋敷の庭には自由に出入りできるけれど、外まではいけない小さい体でならどこか抜け道があるんじゃないかと周りを探してみたけれどどこにもない下がだめなら上はどうかと思って見上げると、高くそびえたつ柵、、、無理!!!

どうやって逃げればいいのよ!それに5つの謎も何も解けてない。透き通った声の持ち主っていったい誰よ!まだこの世界に来てから聞いたことがない。

庭の周りを考えながら歩いていると体がぐらりと傾きこけた。

「うわっ!」

盛大にこけおでこを打った。

「痛い、、、」

もう泣きそうよ!なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ!!!イライラしながらおでこを触り血が出ていないことを確かめる。

幸い軽く打っただけだった。

「おい!!そこどけ!!重い!」

少し低いがあの声に似ていた。振り返ると黒い長い髪が視界を遮った。

「聞こえないのか?お前がいま乗ってるのは俺の足なんだよ!重いから早くどけ。」

髪がなびいて顔が見えた。きれいな肌に灰色の瞳をしていた。

「え?」

「だから!聞こえてるのか?」

「う、うん」

「だったら早くそこどけ。重い。」

なによ!5歳の子供が目の前でこけてたら手を貸してくれたっていいじゃない!

私は起き上がり長髪の男を見た。

「ねぇ、お兄ちゃん。なんでこんなところで寝てたの?ここに来ちゃいけないんだよ?」

「俺がどこで寝てたって勝手だろう。それより俺はお兄ちゃんじゃないノアだ。お前は誰だ?」

勝手って一応ここは王女の住まいなんだけど。不法侵入するにしても場所を選んでよ。

「私はオリビア。オリビア・ジ・スローナだよ。」

スローナと言葉にしたときノアがぴくっと動いた。

「スローナ?お前、王女か?」

「そうだよ、ねぇノア、、さんに聞きたいことがあって。」

「ノアでいい。なんだ?」

「ノアみたいな透き通った声の人、他にいない?」

ノアは私のほうをじっと見つめてきた。

「へぇ、お前面白いもの持ってんな。」

私も質問には答えず、意味不明なことを言ってきた。「面白いもの?」

なんのこと?

「お前、気づいてないのか?もしかして忘れてたりするのか?」

え?もしかして本当に知っているの?”前世”のことを恐る恐る口を開いた

「ぜ、ぜんせ?」

その言葉にノアは目を見開いた。

「やっぱり!覚えてるだな!」

「あなたなの?私が死んだ後に話をかけてきたのは。」

ノアはキョトンとした顔をしていた。

「話?何のことだ?」

え?ノアじゃないの?

「俺は、お前に珍しい魔力がついていたから面白そうだと思ったんだよ。」

魔力?え?この世界に魔法があるの?私が唖然としていた。

「お前、魔法を知らないのか?」

逆に私の反応にノアが驚いていた。

「う、うん。そんなものがこの世界に存在するの?」

「当たり前だ。魔塔のものはもちろん皇族は誰でも持っているはずだ。それ以外の者でも魔力を持っている者もいるしな。お前にも魔力はあるよ。ただ今はそれが出せていないだけだ。」

「まとう??」

またも衝撃だったのかノアは目を見開いていた。

「魔塔も知らないのか?とんだ王女様だな。」

な、なによ仕方ないじゃない誰も教えてくれないしこの国の歴史書を読みたくてもこの屋敷にはないしみんな教えてくれるのは字の読み書きや数学だしどうしようもないじゃない!

「魔塔とはな、あれだよ。」

ノアは立ち上がり高く黒い塔を指さした。

「魔塔の者は平均よりも多い魔力で生まれてくるんだ。そんで、皇族も魔力を持っている理由を簡単に言うと争いを避けるため。魔塔の者と皇帝がやりあったら大変なことになる、だから魔塔の者の中から若い娘を皇帝に嫁がせて、平和を保っていたんだよ。そんで魔塔の者の血を引き継いでるから少なからず皇族にも魔力があるってわけ。」

なるほど、わかりすい。

「でも私のお母さまは魔塔の者なんて聞いてないよ。」

「そりゃ、父親のほうの魔力が強かったんだろ。」

父が魔力を持っていたことを初めて知った。

「あと、前世を覚ええてるんだよな?」

「うん!」

一番聞きたかったことを忘れていた。いままでの話が衝撃的過ぎて忘れていた。

「お前には変な魔法がかかってんだよ。誰にかけられたかどんな魔法かはいまはわかんないけど。」

「どうして、分からないの?」

「起きたばっかなんだよ。あと魔力も足りないんだ。」

ノアはイラつきながら自分の手を見た。

「起きたばっかって。お昼寝してたんじゃないの?」

「お前は馬鹿か?こんなとこでお昼寝なんてするわけないだろ。ましてや王女の屋敷の庭で。ばれたら面倒なことになるだろ。」

じゃあ。なんでここにいるのよ。だんだん呆れてくる。

「ほんとは魔塔の奥深くに眠ってたんだよ。それを誰かかがたたき起こしてここまで飛ばしたんだろ。しかも俺の魔力少しとってきやがったし。」

「ノアは魔力多いの?」

「多いなんてものじゃない。俺は大魔法使いだぞ、そこら辺の魔法使いと一緒にすんなよ。」

じゃあ、なんで大魔法使いが魔力取られてんのよとツッコミたくなったがまた面倒になるのでやめておいた。

ノアのおかげでだいぶこの世界のことを知ることができた。でも、あの透き通った声の持ち主の情報はなにもない。どうしようか、、

「ところでお前、どこ行こうとしてたんだ?」

「え?えっと庭を散歩してただけだよ!!」

流石に、抜け出すための道を探してたなんて言えない。

「そうなのか?俺はてっきり逃げ出そうとしてるように見えたぞ。周りを注意深く見て、柵の上から下までよく見て、抜け穴がないか。」

図星である。

「ち、ちがう!!お父様に!会いに行こうとしてたの!!」

「皇帝に?なんだそうなら言えよ。送ってやるよ暇だから。」

「え?」

反射的についた嘘をノアは本当だと思ったらしく。右手で指を鳴らしたと思ったら。私は知らない場所にいた。辺りを見ると、バラが周りにたくさん咲いていた。バラ園のようだった。

あいつ、、、どこに飛ばしたのよ!!!ここどこよ!!

頭の中はノアへの怒りでいっぱいである。確かに嘘をついた私も悪いが、急に知らないところに飛ばすのはどうなのよ。

とりあえず、歩こう。誰かに道を聞けば何とか帰れる、、多分。バラ園を歩いていくと中央には金色の銅像があった。これだけでいくらするんだろうか。ピカピカしている。

「誰だ?」

銅像に目を取られていた私は背後の気配に気づかなかった。背筋がぞっとした、聞いたことのある鋭く冷たい声。足が震えていた。


振り向くと、私と同じスカイブルーの瞳が私を睨んでいた。


私を殺した父がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

9回目の人生は最もついてない ゆき @yuki_2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ