9回目の人生は最もついてない

ゆき

第1話

目を開けると小さい手が見えた。それと同時に確信した。ああ、またか。本当に飽き飽きする。いっそのこと記憶なんて全てなくなったしまったら楽なのに。

私は9回目の人生を歩むことになった。


私は今まで8回転生をしていた、場所や時代は様々。でもどう頑張っても殺される。しかも毎回19歳で殺されてしまう。1回目は、スローナという国の王女として生まれたが父は私を娘だとは認めなかった。母を奪った元凶だからと。生まれて間もない私を殺そうとしたらしい、でも母が最期に「この子を愛してください。」そう言い残して亡くなった。その言葉が父を止めた。しかし私は父にずっと幽閉された。王女が住まう屋敷には小さすぎる屋敷に、物心がついて父に初めて会ったのは10歳の時だった。瞳は私と同じスカイブルーだった。同じところはそれだけだった、不機嫌そうに私の顔を見つめ

「あの女のガキか。」

と睨みながら私にそう言った。私にはそれが恐怖としか考えれなかった。でもそれは恐怖の始まりの合図だったことはその時の私は知る由もない。

「こちらは、アイリーン様。あなた様の実の娘様にございます。」

16歳のデビュタントで見知らぬ少女が現れた。手入れが整った長いきれいな黒髪と私と同じ色の瞳。”実の娘”じゃあ、私は?私は何なの?とっさに父の顔を見た。父はアイリーンしか見ず私のことは見てくれなかった。

「ほう、俺の娘と言うのか。ではそれを証明するのだな。」

父は面白がるようにそう言い、パーティ会場から姿を消した。

「面白くなってきたな”実の”娘らしいな。」

私の後ろで誰かがそう呟いた。

「やめなさいよ。オリビア様が可哀そうよ。」

それは同情でもない、ただ嘲笑っているように聞こえた。

16歳のデビュタントは最悪な思い出になった。

それから間もなく、アイリーンはサート宮に住んだ。サート宮、それは代々王女が住まう宮として使われてきた。私は立ち入ったことも見たこともなかった。

なぜ父がそこまでアイリーンに興味があるのか。私を見てはくれないのか。私はこの小さな屋敷にずっと閉じ込められないといけないのか。もう、訳が分からなかった。

私は父に出るなと言われた屋敷を出て父がいる王宮へと足を運んだ。唯一私の見方の専属メイドのリアンは「おやめください、下手をしたら殺されてしまいます!!」と私を引き止めたが、もう私も我慢ができなかった。「大丈夫よ、私はお父様の娘だもの。殺しなんかしないわ。」と泣き崩れるリアンを説得し私は馬車に乗った。

本当はすごく怖い。殺されないという保証はない。でも、もう無理だった。私を見てくれない、私を愛してくれない、どうしてアイリーンばかり。気づいたら泣いていた。いけない、私はこれから戦いに行くんだ。父の気持ちを聞きに行くんだ。泣いてはダメ。と私は背筋を伸ばす。そうしていると王宮が見えてきた。

久々の王宮に私は少し臆しながらも馬車を降りる。

「オリビア様?」

不意に誰かに呼ばれ後ろを振り向くと、銀髪の護衛らしき男がいた。

「は、はい」

すると銀髪の男は笑みを浮かべた。

「大きくなられましたね!私、姫様のデビュタントのとき体調が悪くて行けなかったのです。お目にかかれて光栄です。」

銀髪の男は嬉しそうに私に一礼した。

「えっと、、すみません、どちら様ですか?」

私がそう言うと銀髪の男は慌てていた。

「すみません。姫様は覚えていませんよね、最後に会ったのは幼かったですし。」

銀髪の男は胸に手を当て敬礼し

「私は、皇帝陛下専属護衛リチャード・オックスと申します。」

国王陛下専属護衛、つまり父の護衛する人にあたる。そんな人が私に敬意を示していることに対して吃驚した。リアン以外、私にしっかりとした敬意を表す人間なんていなかったからだ。メイドでさえも私を王女として扱わない。それなのになぜ父の護衛がこんなにも私に敬意を表すのか理解できなかった。

「今日はどうされましたか?」

リチャードが尋ねる。

「あ、お父様に会いに、来ました。」

父に幽閉されている身なのに、あの屋敷から出てはならない身なのに。ましてや王宮に上がり込み父に会いに来ました。なんて言ってとらえられたらどうしようか。いろいろな不安が私の頭をよぎった。

「そうでしたか!では陛下の元まで案内いたしますね。」

私の不安とは裏腹にリチャードはにっこりと笑い。私を王宮の中に入れた。

「あ、あの私を追い出さないんですか?」

案内されながら私はリチャードにそう言った。

「いくら何でも私に姫様を追い出すという権限はございませんよ。」

リチャードは私にやさしく安心させるように言った。

「でも、お父様が、、」

「それは、話してみないと分からないではないですか。」

リチャードは優しくそう言ったが私は不安でいっぱいだった。

「では!なぜ私にそんなに親切にしてくださるのですか?」

私は、立ち止まりそう言った。リチャードは私に駆け寄り

「姫様に、陛下を救っていただきたいからです。今の陛下を救えるのは姫様しかおりません。」

リチャードは困った顔をしていた。私は困惑した。

「お父様は病気なのですか?どこかお悪いのですか?」

リチャードは首を横に振り

「とりあえずお会いしてみてください。なにか思い出されるかもしれないので。姫様はルクリア様によく似ていますから。」

亡くなった母の名だった。なぜここで母の名が出てくるのか分からなかった。

「どうぞ。」

王宮の中で一番豪華な装飾をしたドアの前に立った。

「陛下、オリビア様がお見えです。」

リチャードはノックをしそう言った。だがドアの向こうからの返事はなかった。

「きっと、おやすみになられているんだと思います。姫様、起こしていただいてもよろしいですか?」

「え?」

今なんて言った?私がそう聞き返すよりも先にリチャードは私を部屋に入れた。

え?え?ちょっと?!ドアを開けようとしてもびくともしない。何で開かないの?脱出はあきらめ私は父を探すことにした。部屋と言っても広すぎる。おやすみになっているとリチャードが言ったことを思い出し。大きな寝台へと向かうだがそこに父の姿はない。おやすみになっているなんてやはり嘘だったのではないかと思い部屋を探索していると。

「んん、」

聞き覚えのある声が聞こえた。それは紛れもなく父の声だった。後ろを振り返るとソファに寝そべった父がいた。正直、心臓が飛び出るほど驚いた。なぜ寝台で寝てないの。

「お、お父様。」

躊躇しながら父を呼ぶ。

「起きてください。」

なかなか起きない。私が父に触ろうとしたその瞬間、手首が締め付けられた。

「誰だ」

鋭い声と冷たい視線。初めて会った時と同じだった。

「なぜお前がここにいる。どうやって入ってきたんだ。」

父はソファから起き上がり冷たい声でそう言った。手首の締め付けが折れそうなほどに強くなる。

「私がリチャード様にお願いして案内をさせていただきました。今日は話があって、参りました。」

声は震えていた。いや声だけじゃない足も手も怖くて震えていた。

「俺はお前に話はない、もうすぐアイリーンが来る。邪魔だ出ていけ。」

冷たい声でそう言う。”アイリーン”なんであの子ばかり、どうして。込み上げてきたものが一気に私の中からあふれ出した。

「どうして、どうしてアイリーンばかり!私だってお父様の娘です!なぜ私を見てくれないのですか?!あの屋敷に一生、閉じ込める気ですか!どうして、、、」

涙があふれだし床に膝をついた。

「愚かな。」

「は、?」

私は上を向いた。そこには先ほどよりも冷たくにらむ父がいた。

「俺はお前を娘だと思ったことはない。」

最後の声が届かなかった。父は私になにも感じてはくれなかった。

私が泣き崩れていると少女の声が聞こえた。

「お父様!」

知っている声だった。今一番聞きたくはない声だった。振り返るとアイリーンがいた。この場の状況を見て困惑しているように見えた。

「リチャード!」

父がそう叫んだ。リチャードはすぐさま部屋に入ってきた。

「なんでしょう。陛下」

「この醜いものをさっさと連れていけ。」

父の言葉一文字一文字が胸に突き刺さる。

「ですが陛下!姫様はあなたのお子様です。そんなこと私にはできません。」

リチャードがそう言う。

「俺の子供だと?そんな愚かな娘はおらん。」

「本当に何も覚えていないのですか?」

リチャードが怪訝な顔をしてそう尋ねた。

「なにを言っている。はやく連れていけ。」

リチャードは諦めたかのようにオリビアを抱き上げその場を去った。



リチャードはオリビアを馬車まで送り届けた。

「申し訳ありません。姫様。」

リチャードが深く頭を下げそう言った。

「もう、声は届かないと分かりました。私はこの国から出ていきます。」

もう震えは止まっていた。父に愛してほしかった。気持ちを伝えれば、声が届くと期待していた。でも、何も届かなかった。

「国を出るんですか?!」

リチャードは吃驚していた。

「あの屋敷にいるのはもう嫌なんです。だから国を出ます。リチャード様、このことは誰にも言わないでください。お願いです。私は自由になりたいんです。お父様に愛されなくてもいいからせめて、自由に生きさせてください。」

声を振り絞り、リチャードに伝えた。

「承知しました。このことは誰にも口外しません。」

リチャードは私にやさしくそう伝えた。彼に会ったのはそれが最後となった。

私は屋敷に戻るとすぐに出ていけるように荷物をまとめた。ここで私の行動を気にする者はリアンしかいない。リアンは私の話を聞いてすごく驚いていたが。

「私もお供いたします。」と言ってくれた。

しかし、私が自由になることはなかった。私が父のもとを訪ねた3日後、父が毒殺未遂にあった。毒は部屋のあちこちに塗られていたらしい。「犯人は誰か?一番怪しいのは?」王宮ではそんな話が飛び回っていた。

「数日前、陛下のもとにオリビア様が来たらしいぞ。」

「しかも、陛下のことをひどく恨んでいるとか。」

「ずっと幽閉されてたんだよな?」

「動機にしては十分よね。」

犯人は”オリビア様”じゃないのか?

私は決定的な証拠もないまま縛り上げられ、いま絞首台の前にいる。私は無実だと最後まで主張してくれたリアンは捕らえられてしまった。リチャードも主張してくれたらしいが父の耳には入らなかったらしい。

「罪人オリビア・ジ・スローナ。国王陛下に毒を盛り殺害しようとした罪で処刑とす。」

民衆からの冷たい視線、ひそひそと聞こえる声、顔を上げると父が豪華な椅子に座り私を見下ろしていた。やはり何も感じない冷たい視線で。

首に縄がかけられ、いよいよだった。私の19年の自由のなかった愛されなかった人生が終わる。息を吸い込んだ。

「お父様、この瞬間だけでも私を見て。」

泣きながらそう呟くと足元の床が開いた。目の前は真っ暗になった。


__________本当に悲劇のお姫様だな、さすがに同情するよ

死んだはずなのに声が聞こえる。

_____________________君がもし復讐したのなら手伝おう。

復讐なんかいらないから。私に「愛」を頂戴。

__________つまらないお願いだな。「愛」なんて、まぁいい面白そうだし少し手を貸してあげる。


そして透き通ったその声は、聞こえなくなった。



これが私の1回目の人生である・・・・

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