第2話
「まだ、寝ないでください。ご説明しますから。」
声の方に顔をあげると、クロがいたところに燕尾服を着た長身の男が立っている。
黒く艶のある髪、蒼く切れ長の目、筋の通った高い鼻、微笑みをたたえる唇、すらりと伸びた手足、眉目秀麗とはこのことだろう。しかし室内なのに革靴を履いてる。常識はなさそうだ。
「ご説明してもよろしいでしょうか?」
唖然とした表情で眺める俺に対して元クロだった男は丁寧に訊ねてきた。
声が出ないまま、頷いた。
「それでは、理解が追いついていないユウト様にご説明します。」
久しぶりにほかの人に自分の名前を呼ばれたことに気づいた。
「私の名前は、ヒューゴ・アバドラン。グリアン共和国出身の23歳です。」
ヒューゴと名乗るこの男は俺よりもずいぶん年下だった。大学を出たばかりぐらいか。若いな。
それにしてもグリアン共和国という名前は聞いたことがない。
「グリアン共和国はクロッホ大陸の西の沖に位置する南北に長い島国です。」
また意味の分からない名称が出てきた。それより考えを読まれたことに驚いた。
「別に考えを読んでいるわけではありませんが、お声を発していただいてもよろしいですか?」
「あ…あぁ…ヒューゴ…さん……クロは?」
久しぶりに人と会話したことと混乱で意味の分からないことを口走った。少し恥ずかしい。
本当に聞きたいことは山ほどあるがなぜかクロのことを口に出してしまった。
「クロは私です。」
答えは簡潔だったが、意味不明だ。また聞きたいことが増えた。
「長い間一緒にいても分かりませんでしょう。私、変身には自信がありますので。」
得意な表情を見せた。虫を捕まえてきて得意気に見せる猫のようだ。若いなぁ。
こんな奇天烈な状況で関係ないことを考えている自分にまた驚く。
「今日は多くのことに驚きますね、ユウト様。」
また考えを読まれた。もう考えを読むのはやめてほしい。
「承知しました。それではお考えを声に出してください。」
皮肉を言われてしまった。
「じゃ…じゃあ…まず、グリアン共和国って何?」
「はい。グリアン共和国というのは先ほども説明した通り、惑星マスエイアの大陸クロッホの西の沖に位置する7つの主要な島々からなる南北に長い島国で首都をケーピタルに置く、共和制の国家で────」
「ストップ、ストップ。また理解できない言葉が出てきたじゃないですか。」
「これでも、ユウト様に理解できるように分かりやすく説明していますが。」
これで分かりやすくしてくれているのか。頭が痛くなってきた。頭痛薬はどこにあったか。
「それで…、なぜ、そのグリアン共和国出身の、ヒューゴさんが、この家で、猫に変身、していたんですか?」
「それはあなたをグリアン共和国につれていくためです。」
ついに目の前が真っ暗になってしまった。
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