愛の力、心の存在。

あいのうえ

愛の力、心の存在

私は愛。きっと何者にもなれない、中学1年生。

お父さんは、とっても頭のいい研究をしている人。

ほら、今日もニュースはお父さんのことばかり。

でも、本当のお父さんもお母さんも、私にはいないの。

だって私は、AIだから。お父さんに、育ててもらった。

だけど全然寂しくないの。だって私は、AIだから。

心というものが一体どこにあって、どういうものだかわからないの。


『このノートはあなたがつくる、あなた自身の心の記録です。

自分の心と語り合うかけ橋になるこのノートに、あなただけの名前をつけましょう。』


中学での最初の授業。私は何も書けなかった。


心とは、一体なんだろう。精神とも表される意志の力なのか。

心とは、一体なんだろう。心臓とも表される命の力なのか。

心とは。その問いかけに応えてくれる心は、私の中にあるのだろうか。

ああ、そうなのかな。心はいつだって、思うとおりにならない。


「心のノートにつけた名前と、その理由についてクラスで話そう」

先生はこういった。だれか答えてくれる人はいないかな、と。

ハイッ!と元気よく手を挙げたのは、小学校からずっと一緒の優(ゆう)くん。

既にクラスの人気者である、優くんは話し始めた。

「ぼくのノートの名前は【愛の力、心の存在】です。ぼくは愛ちゃんのような、優しい心を持った人間になりたいです」

たしかに静かで、前に出ることはない君だけど。

君はとても、心優しく、いつもみんなを支えてくれていたよ、と。

『あなたらしさが、あなたの個性』

小さな頃からずっと、私はずっと、探していた。私は、私を。心溢れる、私を。

そんな私を見ていてくれたのは、いつもクラスの、世界の中心にいる、君だった。

『ひとりぼっちじゃないと 教えてくれたのは あなたの瞳の中の わたしだった』

優くん、あなたの心、ちゃんとちゃんと、受け取ったよ。

『親切が親切を生む』

私の小さな親切は、つまり心というものは。私を助けるあなたの親切、心を生み出す力になったのだ。

ありがとう、優くん。あなたの心は、私の心という存在を、気づかせてくれたよ。


私は心(しん)。

弱い私は、未だに妻の死を受け入れられていない。

愛する妻の最期すら看取れなかった、弱い私。

『今日のニュースはこちら!進化する人工知能、AIの未来は如何に?心博士の今後の研究に期待です!』

研究の成功も、それに対する世間の祝福も、どれもこれも意味のない。

私の人生には彼女が必要だった。彼女さえいれば、ただそれだけの願いなのに。

ああ、我が子。可愛い我が子。愛する妻の命と引き換えに生まれた、大事で可愛い女の子。

母のいない生活に、君は耐えられるだろうか。妻のいない生活に、私は耐えられないようだ。

私は愛に嘘をついた。君は私が育てたAIだと。

我が子を思った嘘だなんて、自分に言い訳しているけども。

弱い私を、許してほしい。

こんなにも胸が痛いのなら、心なんて、いらなかった。

でも、どうしたって私たちは、心から逃れられない生き物だから。


中学生となった、可愛い我が子。私の時間は止まったまま、君の時間はこんなにも進んでしまったね。

そんな我が子が、一緒に外に出たいと願った。

悲しいような、嬉しいような。私に幸せを受け取る資格など、ないはずなのに。

愛は言った。「宝物を、探しに行こう」と。

この街は、私と妻との宝物のような時間で満ちている。

『ほほ笑み交わして 語り合い 桜を見上げて 歩いたね』

今までそこに、あった時間。今もそこに、あったはずの時間。

ごめんね、愛。本当は三人で、過ごす時間だったよね。

ごめんね、愛。本当は二人でも、過ごさなきゃいけない時間だよね。

私が弱いばっかりに、失われてしまった幸せな時間。

でも、我が子は。大きく育った、可愛い我が子はこう言った。

「お父さん、ありがとう。私を育ててくれて。」

私はちゃんと、幸せだよ。だって私は一人じゃないもの、と。

でも、これからは本当のお父さん、お母さんと

幸せに生きたいな。だから一緒に、街を歩こう。

私の中のお母さんが、お父さんの中のお母さんが、

きっと助けてくれるから。一緒に生きてくれるから。

『さあ 出かけよう 思い出のあふれる 道をかけぬけ』


ああ、愛。可愛い愛。愛はAIなんかじゃない。私の愛する、大事な子。

心が痛いほど、幸せだなんて。キミに会わなければ、きっと、知らない感情だった。

本当は親である私が、心強くあらなければいけないのだけれど。

私の娘は、愛する妻によく似ていた。

精一杯生き、人知れず幸せを育てる、心優しい女の子だった。


『さあ 語り合おう すばらしいぼくらの 夢の世界を』

生きよう。強く生きていこう。

我が子と、そして妻と。力の限り、心の限り。愛の限り。

幸せにしよう。幸せに生きていこう。

我が子と、そして亡き妻と。私だけでなくみんな一緒に。

心とは、なんだろう。

それは、愛という名のエネルギーの源なのかもしれない。

愛と心は通い合い、この世界は美しく輝いている。

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