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「やっぱりクラス離れるみたいだよ」


 木葉は傍らにぴったりと寄り添う雪葉に、そう固い声質で囁いた。

 廊下から校長室の扉に耳を当て、教師と両親との会話を盗み聞きいている。どうやら話の限り、自分達二人は世間の常識から乖離しているらしい。教師から異常児と見られているのだと知った。

「木葉と離れなきゃいけないの? そんなの」嫌だよ――雪葉は声を涙ぐませ呟いた。大きな瞳を濡らす涙が、今にも溢れてしまいそうだ。

 雪葉の沈んだ姿に木葉も眉を潜め、作戦会議をしよう――と、彼女の手を引く。

 二人は中庭の洞窟風の遊具に身を潜め、泥の積もったコンクリートの地面に屈んだ。白い肌、柔らかく膨らんだ頬、切れ長の二重、真っ黒で真っ直ぐな髪。瓜二つの顔が並び、鼻先が触れそうな距離で鏡映しに向かい合う。

 二人は二卵性の双生児だ。優秀故に多忙な両親に代わり、二人に関心のないベビーシッターに育てられ、幼い頃から愛情に餓えていた。ずっと二人きりで、他人との感情を伴う接触自体が皆無な環境で育ち、互い以外の人間を受け入れることを覚えなかった。

「あの二人が本気になれば、俺らなんて簡単に引き離される」なにか対策しなきゃ――言った木葉の深刻な言葉に「どうして木葉と離れなきゃならないの? そうだ、クラスの半分を殺しちゃえば一クラスにできるじゃない」どうかな――と、雪葉は至った考えを無邪気に話す。

 確かにそうだね――そう彼女の閃きに一度共感してから、木葉は困ったように笑い言葉を続けた。

「とても魅力的な提案だけど、殺しちゃダメだよ。それだとクラスどころか、二度と会えなくなるかも知れない。雪葉はそれでいいの?」

「それは、嫌――」

「俺も嫌だから、そう言う考えはなしにしよう」

 けど――と、頬を可愛らしくむくれさせる雪葉に「ね? そうしよう」と優しく諭し、肯定的な返事を促す。

「うん。だけど、同じクラスがいいよ。私、木葉と少しも離れたくないの」

 そう瞳を潤ませ嘆く雪葉の姿が、木葉の焦燥感を煽り立てる。自身の非力さに憤り、胸を抉られるようだった。冷静さと余裕だけは失ってはならないと、木葉は一つ深い呼吸をして、雪葉と自身に言い聞かせるように口を開く。

「今は様子を見よう。絶対に、あの二人を本気にさせちゃいけない。自由を手にするために耐えるんだ」

「みんな、いなくなればいいのに」

「そう願いたいけれど今は我慢だよ、雪葉。一緒にいるために――」


 新学期、学校側は宣言通りに雪葉と木葉を別々のクラスへ追いやった。今はどんなに歯痒くても、奥歯を噛み締めて耐え潜む。

 不満ばかりが募る学校生活。帰宅しても各々の部屋に閉じ込められ、個々に家政婦が付けられた。広い邸宅であるのに使う部屋は己の部屋のみ。どこへ行くにもお目付け役に付きまとわれ、心安らぐ時間は皆無だった。

 それでも二人は、使用人や教師の目を盗んで密会し、束の間の時間を共有していた。共に自由を獲るため勉学に勤しみ、求められるいい子、理想の子を演じ、貫き通す。

「雪葉、知識を付けよう。俺たちにはあの二人を上回る知識が必要だ」

「どんな知識が重要になる?」

 雪葉の問いに、わからない――木葉は困ったように笑い言った。

「わかった、なんでもやってみる。どんなことでも知識として吸収してみせるわ――」

 強気に笑う雪葉の言葉に木葉は安堵し、さあ、帰ろう――と手を差し出した。雪葉は大人しく従い、差し出された手を取る。

 両者ともに時間切れであると理解していた。両親にはこの会話もばれてるし、もうじき迎えが来ることもわかっていた。

 この世の全てを欺こう――木葉は雪葉の目を強く見詰め、声には出さず念じる。きっと雪葉には伝わると、木葉には奇妙な自信があった。


 十二歳の冬、真夜中の庭の隅で二人は固く手を繋ぎ合い誓う。白く染まる呼吸が、微睡むように暗闇に溶けて消え行き、静寂を母の金切り声が裂いた。

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