強くてニューゲーム
第二回MMVC。
正式名称MADNESS MARIONETTE VIRTUAL CUP。
大人気ゲーム『マッドネス・マリオネット』のバーチャル配信者限定の大会だ。
第一回はこの前仕事でお会いしたバレッタ・ロックハートが優勝したんだが、それよりもとあるチームの炎上騒ぎが記憶に残っている。
MMVCはチーム毎に実力差が出ないようにする為に強いプレイヤーは初心者プレイヤーと組むようになっていた。
こおりちゃんはゲーム内最高ランクのマリオネットキラーに到達していて、それはMMVCに参加していたバーチャル配信者では唯一だった。
従ってそんなこおりちゃんとペアを組むのは当然ゲームを初めて間もない初心者プレイヤーということになる。
その白羽の矢が立ったのは、大人気バーチャル配信者
大会内で最も実力差が大きいそのペアは、惜しくも優勝を逃してしまった。
エムエムは二人の連携が肝のゲームだから、上手い人ひとりより中級者ふたりの方が有利になりやすいゲームなのだ。こおりちゃんはそれでも幾度となく敵を撃破していたんだが、流石に優勝まではたどり着けなかった。
問題はその後だ。
こおりちゃんのチームはどうしても姫が足を引っ張ってしまっていた。
当然だ。バランスを取るためにそうなっているのだから。こおりちゃんが中級者と組んだら余裕で優勝してしまうだろう。
だが、観ていた視聴者はそれで納得出来なかった。
大会終了後、こおりちゃんのファンが姫の配信になだれ込みコメント欄を荒らしてしまったのだ。
この世のあらゆる暴言を用いたようなその荒らしは数日間に渡って続いた。こおりちゃんが止めなければいつまでも続くんじゃないかと思うくらい悲惨な状態だった。
そのせいで未だに姫の視聴者とこおりちゃんの視聴者はギスギスしてしまっている。
俺が今年一年で最も悲しい出来事だった。
あんなことは二度と起こってほしくない。そう強く願っている。
第二回MMVC。
こおりちゃんとペアを組むのは…………なんと姫だった。
あんな炎上騒ぎがあったのに、姫は自分からこおりちゃんに声を掛けたのだという。この前のオフコラボ配信で姫が語っていた。
自分たちの視聴者同士が仲良くなってほしいと思っていると。
いちこおりちゃんファンとしてその気遣いが何より嬉しかった。きっとこれからは仲良くなれると確信させるような、そんなコラボ配信だった。
問題は…………俺が気にかけているもう一組のペアである。
バレッタ・ロックハート&
前回優勝者のバレッタのゲーム内ランクは上から二番目のチャンピオンだ。
一番上がマリオネットキラーでその下がチャンピオン。その下にはダイヤ、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズと続く。
一般的にチャンピオンからが超上級者とされていて、多分履歴書とかにも書けると思う。
ただでさえ高ランクのチャンピオンの上に、バレッタは前回優勝者ということで他のチャンピオンランクのプレイヤーより強いという扱いを受けていた。組むペアの強さ的にはこおりちゃんと同等の扱い。
つまり不可思議ありすはエムエム初心者だった。
最近よくエムエム配信しているがランクはシルバー。ブロンズよりは上だがこの辺りはほとんど差がないと認識されていて、纏めて初心者として扱われている。勿論履歴書には書けはしない。
…………もしこのペアが負けたら、ありすちゃんの配信は荒らされてしまうだろうか。それとも笑い話で終わってくれるだろうか。
「荒れないといいな……」
この前までなら気にも止めなかったペアだった。俺はこおりちゃんのペアにしか興味がなかった。
しかし今は違う。
芽衣ちゃんが悲しむ姿を想像すると、何だか凄く嫌だった。自分のことのように心配だった。
どうか芽衣ちゃんが楽しんで終われますように。
こおりちゃんの優勝と同じくらいの強さで、その事を神に祈った。
◆
「も……バレッタ、今日エムエムの練習に付き合ってくれない?」
危ない危ない、ついもえもえって呼んでしまうところだった。
この世界ではボクともえもえはまだプレイベートでそこまで仲がいいわけではないから、どうしても調子が狂うなあ。
『……今日の夜は配信があるから、その後になっちゃうけど、それでもいいなら……』
「全然大丈夫だよー。バレッタの配信って何時までの予定?」
『…………えっと、今日は十二時には終わろうと思ってた、かな』
「そかそか。じゃあ一時からでもいいかな? 遅くなっちゃうけど」
『……うん、大丈夫。…………ありすちゃん、最近エムエムモチベ高いよね。配信でも、よくやってるし……』
「…………MMVC、どうしても優勝したいんだ。だからバレッタの足を引っ張らないように練習しておきたくてさ」
『…………それは…………ちょっと意外だった。えっと……ありすちゃんがそこまでMMVCに思い入れがあるって、知らなかったから』
「あはは、そうだよね……」
この世界のもえもえに何も言えないことが、凄く申し訳なかった。
親友を裏切っている気がした。
もえもえだって千早くんのことが好きだった。
勇気が出なかったボクと違って告白だってした。この世界で報われるべきはボクではなくもえもえの方だって、ボクだってそう思う。
でも…………ゴメン。
この世界でだけは、どうしても譲れない。千早くんを譲ることなんて絶対に出来ない。
好きで、好きで、たまらないんだ。
「得意なゲームじゃなくても負けたら悔しいじゃない? やらずに負けて後悔するのは嫌なんだ、ボク」
『…………凄いね、ありすちゃんは』
…………ううん、全然凄くないんだよ。
だって、
「そんなことないよ。じゃあ今晩よろしくね」
待っててね千早くん。
今度こそ、必ず想いを伝えるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます