第24話
私の母とあなたのおばあ様。最初は、健診で知り合った母親同士で、仲良く、助け合って子育てをしていたんだと思います。でも、心のどこかで競争心があり、いつの間にか子供同士を競わせ、比べ合うようになってしまっていました。不幸なことだと思います。
私の母は、夫が医者であることを自慢にしていました。それを意識されたのか、阿紀さんのお母様、つまりあなたのおばあ様は、阿紀さんを医大に進学させたいと方々で言われるようになり、その噂が私の家にも聞こえてきました。
私はごく普通の娘でしたので、私の母は弟に期待をして彼を医者にしました。私の母が、私に望んだのは、一刻も早く「いいお家」にお嫁にいくこと。そういうわけで、私も自分の実家に居づらくて、二十三才でお見合いをして、泉澤の家に嫁いできました。
一方、阿紀さんは医大を受験されましたが、不合格でした。一年の浪人のあと、一流大学の理学部に合格され、大学院に進まれたと噂で聞いていました。私は阿紀さんが無理をして理系の科目を頑張って勉強されたと思います。もし、文系学部を選ばれていたら浪人せずにすんだと私は思います。阿紀さんは勉強はよくできる人でしたが、好きだったのは、国語や歴史だったと記憶しています。ピアノを弾いたり、絵を描くのもお好きでした。医大を受けられたのは、お母様の期待を背負われて頑張られたのだと思います。
お互い会うこともなく、三十年余りたっていましたが、私は、あの時、お会いしてすぐにわかりました。阿紀さんはどうだったでしょうか。もう私のことなど忘れておられたか、あるいはすぐに気がつかれ、ご自分の娘さんがよりにもよって私の家に寄り道するなど、不愉快に思われたか。いずれにしても阿紀さんには申し訳ないことでした。
おばさんの手紙はまだまだ続く。
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