第21話

美容室IZUMISAWAは平屋でこじんまりとした店だった。看板はなく、入り口の横に、小さな黒板がイーゼルにたてかけてあり、そこに店の名前と料金が書いてある。赤茶色の屋根瓦に白い壁。木製の玄関ドアを開けると、ドアチャイムがカランカランと鳴った。

私がいつも行っている大手チェーンの美容室と違って、鏡も椅子も一つだけだ。置いてある家具はアンティークでそろえているようだ。照明器具や壁紙はレトロな雰囲気をかもしだし、美容室によく置いてある雑誌の類は目につかない。美容師さんが手元で使うワゴンも木製で、雰囲気を壊さないように気配りがされていると感じた。お客が一人で気兼ねなくくつろげるように考えられたお店なのだろう。

すすめられて、小さな丸テーブルの前の椅子に座った。古いけど、座り心地がよかった。良子さんは紅茶とクッキーをすすめてくれた。金縁の赤いバラのティーカップのセットが素敵でしばらく見とれていた。

「久美ちゃんと私は同じ泉澤の嫁同士で仲良しなのよ。あなたのこと、かわいいお客さんがやって来るようになったって喜んでいたわよ。」

「あの、おばさんはお元気にしておられますか。どこに行かれたのですか。」

「家がなくなっていてびっくりしたでしょう。久美ちゃん、娘さんの近くに部屋を借りて、そこに住んでる。一大決心をして、あの家をアパートに建てかえることにしたのよ。」

「おばさんが、ですか。」

「そうよ。驚いた?」

「はい。」

「ああ見えて、久美ちゃんは泉澤の本家の主人。受け継いだ土地に建物を建てて会社に貸したり、アパートとか駐車場にしたり、まあ、色々としてきた人なのよ。」

「おばさんはここには戻って来ないのですか?」

「大きめの部屋を一室つくって自分のために確保するって言ってた。娘さんの近くに借りた部屋と行ったり来たりするつもりらしいわ。」

私が知らなかったおばさんの一面がわかり、ただただ驚いた。

「はい、久美ちゃんからの手紙。しばらくお客さんは来ないから、よかったら、ここでゆっくりと読んで。」

良子さんに分厚い封筒を渡された。

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