第20話
高校三年生の一年間はあっという間に過ぎた。両親と奈緒さんに支えられ、助けられ、私は大学に合格した。自分でも信じられなかったが、ママと同じ大学の文学部に入学する。
ママと奈緒さんのおかげで理数系の科目の成績はあがったが、自分の適性を考えたら文学部がいい。意外にもママは私の意志を尊重してくれた。国語教師のパパはもちろん何も言わないし、秘かに喜んでいるように見えた。成績が上がり、ママと同じ大学を受けることになったのが幸いしたのかもしれない。
高校の卒業式の次の日、私は久しぶりにおばさんをたずねてみようと思った。あの日、おばさんの家でべそをかいて送ってもらい、おばさんと両親が鉢合わせをしたことが、私にとって、大きな転機になったのだ。
もし、私が一人で帰宅していたら、帰りが遅いと怒られて、後はふてくされるだけで終わっただろう。おばさんと出会ったことで、両親は明らかに私への接し方を変えた。親子関係が改善され、その結果、手にした大学合格だと思っている。今なら、胸をはって会えるかな。あれから、何度かたずねたが、留守で会えずじまいだった。おばさんはどうしているかな。
そんなことを考えながら、おばさんの家の前まで来て、私は仰天した。おばさんの家がない。おばさんの家があった所が更地になっている。目の前の光景に呆然としていると、声をかけられた。
「失礼ですが、あなた、ひょっとして、華岡瑠偉さんですか?」
振り返ると中年の女性が立っている。スリムな体つきで、シャンパンゴールドのカッターシャツに黒のスラックスを着こなし、ゆるやかなパーマをかけた髪をポニーテールにしている。スラックスと同じ生地のショートエプロンのポケットからハサミが見えた。
「美容師さん…」
「そうです。そこで美容室をしている泉澤良子といいます。久美ちゃんから手紙を預かっています。」
そうだ。おばさんの名前は泉澤久美だった。私は改めて名のった。
「華岡瑠偉といいます。おばさんにとてもお世話になったので、お礼に来たんです。」
「良かったら、お店に来てくれないかな。」
泉澤良子は気さくにそう言った。
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