第39話
その日の夕飯は、久美からもらったちらし寿司とインスタントの吸い物で、帰りが遅い子供達を待たずに良子と勇の二人でさきに済ませた。
「どうした?爺さんの毒気にやられたのか?」
勇に問われて良子はわれにかえった。
「財産狙い見え見えの叔父さんにもゾッとしたけど、久美ちゃん、今まで見たことないような怖い顔で……」
「仕方ないだろう。久美ちゃんだって、自分と奈緒ちゃん、護らないといけないんだから。」
「でも…でも…なんだか…」
良子は自分の気持ちを上手く表現できない。
「久美ちゃんは良子と違って、ほとんど社会人としての経験がないまま泉澤の本家に嫁にきて、まあ、色々あって、今、ようやく自分の代になって、あの子なりに頑張っていると俺は思うよ。」
「それはそうなんだけど、でも、久美ちゃんが辛抱して手に入れたものって……」
「それなりの財産持ちになったな。未亡人になっても暮らしに困ることはない。」
久美はそれで幸せなのだろうか。財産だけで、人は幸せになれるのだろうか。潔の妻でいたからこそ、手にした財産だ。しかし、人に妬まれ、人の心の中にひそむ浅ましさを見せつけられて、本当に幸せでいられるものだろうか。
確かに、久美は強くなった。だが、これから生きて行くのにもっと必要なものがあるのではないかと良子は思う。
「良子、あんたが久美ちゃんのことを思うなら、灯籠になっておやり。いいかい。灯籠だよ。足元を照らしてあげなきゃ道に迷ってしまうのさ。だけどね、照らすだけだよ。手を引っ張ったらだめだ。久美ちゃんが自分で歩き出すしかないんだよ。」
今更ながら、良子は光代の言葉を思い出す。
「お袋は久美ちゃんが嫁に来たころ、泣いているのをよく見かけたって言ってたな。潔のやつ、可愛い娘と結婚することになったって喜んでいたのに。親と嫁さんの間にたって大変だっただろうけど、もうちょっと何とかならなかったのかって思うよ。」
良子は潔のことを思い出した。どうしても行かなければならない学会があるといって、体調を崩した久美のことを良子と光代に頼みに来た。学会からの帰りに買ったというどこにでもあるクッキーのセット。恥ずかしそうに家内を頼むと言った潔のことを改めて思い出した。その瞬間、良子の頭の中にひらめくものがあった。
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