第37話

 瞬間、髪をカールさせて、可愛らしく変身させたが、二日もすれば、髪を後ろで束ねて、地味なグレーのTシャツに洗いざらしのデニムのキュロットといういつもの姿で、久美は家の周りを掃除している。 

 朝、その姿を2階の窓から見て、ため息をついた良子に、勇は笑いながら言った。

「久美ちゃんが、自分できれいにセットするようになったら、良子の仕事の存在意義にかかわるだろうが。」

「それはそうだけどさ、どうして、あんなに地味な格好なのさ。もう、うるさい舅、姑、潔さんもいないのに。」

 勇はいつになく真面目な顔で言った。

「久美ちゃんのまわりには、まだまだ怖いやつらがいる。」

「どういうこと?」

「本家が財産持ちなのは何故だと思う?」

「そりゃ、本家だし……」

勇は吹き出した。

「いいか、良子。本家は、代々、長男がほとんどの財産を引き継いできた。ということは、そのかげでもらえなかった人間がいるってことだ。本家はその恨みも背負うことになる。入るものが多いと出るものも多い。財産を上手く運用して維持できなれば笑い者にされる。」

「怖っ!」

「おっとりしてるように見えるけど、久美ちゃん、なかなかしっかりしてる。俺は仕事柄、泉澤の親戚の家の修理やリフォームなんかで出入りするけど、なかには、奈緒ちゃんと女二人で何もできないだろうって、この際、久美ちゃんから土地を安く買い叩こうとしている奴らがいる。みんなが久美ちゃんの一挙一動を見てる。みんなの反発をまねかないようにできるだけ質素に地味にしている。少しでも派手好きだと噂になればそこにつけこむ輩もいる。久美ちゃんなりに自分たちを護っているんだと、俺は思う。用心して暮らしている。まあ、久美ちゃんの変身計画はなかなか難しいだろう。」

「それはいいけど、ほんと、泉澤って怖い家ね。」

「良子の美容室に来るのは、良子とお袋の友達が多いからな。まあ、今に始まったことじゃないが、泉澤の一族の中で、ここは別世界だからな。」

良子は、今更ながら、光代に感謝をしつつ、久美のおかれた状況の大変さを思い知った。


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