第36話
久美は、さらに続けた。
「よっちゃん。私ね、色んな人に助けてもらって、何とか、ここで生きてるの。よっちゃんにも、光代おばあちゃんにも、奈緒にも。その他にもたくさんの人に助けてもらって。」
「大変だったよね、久美ちゃん。」
良子の言葉に、久美はフッと笑った。
「明日のお米に困ってたわけじゃない。でも、人の気持ちとか、心の暖かさは、この泉澤の家にはなかった。探せば、あったのかな。でも、私には感じられなかった。」
良子には久美にかける言葉がみつからない。しばらく間をおいて、久美は言った。
「だからかな、優しい言葉を聞くと、気持ちがぐらぐらして。相手が男性だったりすると、こんな人に出会いたかったって思ったりして……ううん、違うな。好きになっちゃうな。よっちゃんだから正直に言うけどね。ただね、見た目しっかりおばさんだから、相手にされないから、間違いもおきなかっただけ。」
良子は、ショッピングセンターで、若い男性といた久美の姿を思い出した。あの時の久美の笑顔をもう一度見たいと思った。そして、きっぱりと言った。
「久美ちゃん。久美ちゃんはとっても魅力的だよ。すっごくきれいだよ。誰にもおばさんなんて言わせない。今日はもっときれいにしてあげるから。そうだ、髪、サイドを編み込みって思ってたけど、巻いてあげる。少し、カールさせよう。その辺の男どもが卒倒するぐらい可愛くしてあげるから。」
「よ、よっちゃん?」
久美は戸惑っていたが、仕上がったヘアスタイルをみて喜んだ。
「ありがとう、よっちゃん。午後からお客さんなの。業者さんだけど。」
「久美ちゃん。潔さんが亡くなって、今や泉澤本家の主人になったのよ。ここぞって時は、髪、セットしてあげるから。そうだ、メイクとか、洋服選びとか、娘達も動員して手伝うから。」
「よっちゃん、ありがとう、頑張る。」
「私こそ。母親のこと、良いように言ってくれて、嬉しかった。」
久美と良子は二人とも涙ぐんでいた。
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