第35話
「えっ!どういうこと?」
戸惑う良子に久美は言った。
「前から思ってたの。よっちゃんはとても美人だから、お母さんも美人だっただろうなって。だから、男の人が、ほうっておかなかったのかもしれないわ。」
「く、久美ちゃん?」
お嬢様育ちの久美が大胆なことを言う、と良子は思った。
「よっちゃん。私、思うの。人はそんなに強くない。心の奥底ではみんな心細くて誰かに頼りたい。でも、ほら。例えば私。どこから見ても、ぽっちゃりなおばさんでしょ。まず、女性としてみられないから、男の人と絶対に間違いもおきないし。それが、美人さんなら、また事情がかわってくるのかもしれないわ。」
良子は答えに困り、手を動かすしかない。
「怒らないでね、よっちゃん。ただ、よっちゃんのお母さんは、お母さんなりによっちゃんのこと考えておられたと思うの。よっちゃんと住んでいる家には男の人、入れなかったんでしょう?最後のパートナーの人に自分のことを託されたのも、考えようによっては、よっちゃんに迷惑かけないようにしようと思われたのではないかしら。」
「久美ちゃん……」
「よっちゃん。自分のお母さんのこと、身持ちが悪い女の人だって思ってない?私はそうは思えないの。私の母は、父が亡くなってから一人暮らしでね。弟夫婦は二人とも医者だし、忙しくて、かまってもらえないから寂しかったでしょうね。『誰にも頼ってない。』が口癖だったけど、本当にそうかしらね。誰かしら、助けてくれる人はいて、たまたま男の人じゃなかっただけよ。」
「久美ちゃんの言う通りならいいんだけど……」
「よっちゃん。みんな薄氷の上を歩いているようなものよ。たまたま、氷がわれなくて歩けているのに、自分はしっかりやっているって思い込んでいる人、いっぱいいると思うのよ。」
いつになく、久美はよく喋ると思いながら、良子は黙って聞いていた。
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