第32話

 久美の姿を見て、さらに良子は泣きじゃくったが、しばらくして、さすがに泣きつかれたのか、ようやく涙がとまり、良子は、久美にことの次第を話した。

「おばあちゃんらしいわ。」

久美は目に涙をうかべている。

「そうそう、お豆、たいたの。よっちゃん、時間のかかるお料理、できないって言ってたから。」

久美から受け取った紙袋の中には、煮豆のほかに、芋とタコの煮物やアジの南蛮漬けなどをつめたタッパーが入っている。良子の好物だ。光代が亡くなってから、良子が一人で料理をするようになり、気がつくと、炒め物が多くなっているので、久美の差し入れは、本当に助かる。

「ありがとう、久美ちゃん。久美ちゃんも、潔さんが亡くなってから、色々、忙しいのに。」

 久美はかぶりをふって、

「別に、私は何もしてないわ。泉澤の土地の管理は、前の代の人がやってきたことを、ほとんどそのまま引き継いでいるだけよ。それに、実際に大変なのは、業者さんの方でしょ。色々、考えてもらって、いざ、事が始まったら、あちこち走り回ってもらっているから。私より、お店をやっているよっちゃんの方がよっぽど大変よ。」

と、笑った。

「潔さんが亡くなって、もちろん、半分は奈緒の名義だけど、でも、あの娘はここにいないから、私なんかが土地のことをするようになるなんて、皮肉なものね。もともと、何も任されない嫁だったのにね。いいなあ。気持ちのこもった物を遺してもらえるなんて。よっちゃんのところは、みんなでお互いを想いあってきたのよね。それに比べてうちはだめよね。」

久美はしみじみと言った。



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