第30話
偶然、仏壇の引き出しから出てきた光代の封筒が気になって、その日の午前中、良子はなかなか仕事に集中出来なかった。大きな失敗はせずにすんだものの、手元がくるって、何度かコームを床に落としてしまい、お客に、疲れているのではないかと心配された。
午前中の最後のお客を送り出すと、良子は美容室に持ってきた光代の封筒を開けた。便箋とチラシのようなものが折りたたんで入っている。封筒の中身を取り出すと、名刺が入っていた。その名刺の名前を見て、良子は体が固くなるのがわかった。
「光石智明……」
良子の母、矢島みどりの最後のパートナーだった男性だ。十七年前、みどりが、入院したと良子に知らせてきた。驚いて良子が病院にかけつけると、みどりの病室に光石智明となのる男性がいた。
「私、癌で、あまり長くないの。後のことは、彼がしてくれるから。」
一方的に母に言われて、良子は頭に血がのぼった。
母の死後、光石智明から、みどりがあらかじめ用意していた遺言書を見せられた。母の貯金などは光石智明にすべて譲ること、そのかわり、死後の後始末の一切を光石智明が行うことが書かれていた。
母の反対をおしきって結婚したとはいえ、これが娘に対する仕打ちかと思うと、良子はどうしても我慢がならず、母の葬儀が終わると、すべて光石に任せたのだった。葬儀には、勇作と光代、勇と子供達が来てくれたので、辛うじて平静を装った良子だったが、そのあとのことを、光石と一緒にするなど、どうしても出来なかった。
「どうして、おばあちゃんがあいつの名刺なんか持ってたんだろう。お葬式の時にあいつが渡したのかな。」
記憶をたどっても、当時のことは思い出せない。
名刺をひとまず横において、良子は折り畳んである便箋を開いた。
良子様
私の最後のお節介です。
光石さんに連絡をとって、あなたのお母さんのお墓の場所を教えてもらいました。
光代
チラシは霊園のものだった。
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