第28話

 次の日の朝、久美は良子の美容室にやって来た。

「よっちゃんに髪のお手入れしてもらっている時が、一番幸せ。」

最近の久美のお気に入りはヘッドスパだ。

「もっと早くからしてもらえばよかったな。女王様になった気分!」

良子は念入りに頭皮のマッサージをしながら、フフフと笑った。

「久美ちゃん、いやなこと、悪いもの、ぜーんぶ、ここに置いていって。」

「ありがとう、よっちゃん。」

 ヘッドスパが終わり、シャンプーをして、ドライヤーで、久美の髪をまっすぐに伸ばす。久美の髪は癖があるので、普段は後ろで束ねることが多いのだが、肩までの髪をおろすと、チャーミングだと良子は思っている。

「どう、気分さえよかったら、この後、お出かけとか。」

という良子に、久美はかぶりをふった。

「いいの。髪をきれいにしてもらったら、家で仕事をしていても、気分がいいから。」

「余計なお節介だけどさ、もう少し出掛けたらどう?」

「そうね。お医者さんはいくかな、時々。買い物はネットでできちゃうし。用事のある人は向こうからきてくれるし。」

「奈緒ちゃんのところは?」

「あの子、仕事で忙しいから。時々、帰ってくれるようになったから。それで十分よ。」

「それでいいの?」

「うん。今までよりも楽になった。私、ひどいでしょう。夫が亡くなっているのにろくにお花も供えてない。自分でもわかってるの。いつも、よっちゃんがしてくれているのよね。本当に悪いと思っているのよ。」

「そんなことはいいよ。久美ちゃんが色々、辛かったのは、私達、ずっと見てきたんだし。無理しなくていい。自分の気持ちに正直でいいよ。それにさ、

潔さんに供えているのは、おばあちゃんに供える、ついでだよ。まあ悪いけどさ。」

いつものことだが、次のお客が来るまで、久美と良子のおしゃべりは終わらない。

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