第25話

 しばらくして、光代は突然、真顔になった。

「良子。あんたにはすまないことをしたよ。」

「おばあちゃん、何を言いだすの。」

良子は驚いた。今日の光代はいつもと違う。

「さっきの話しさ。私達はあんたにお母さんとの時間を捨てさせてしまったよ。今さらどうにもならないが、本当に申しわけないことだった。」

光代は椅子から立ち上がり、良子に頭を下げた。

「ちょっと、やめてください。そんなことをしないで、おばあちゃん。」

 良子は光代を椅子に座らせ、自分も別の椅子を持ってきて光代と向かいあって座った。

「私は、自分の意志でここにいるの。何も捨ててはいないの。」

良子ははっきりと言った。

「もともと、母親との関係が悪かったの。結婚できずに私を産んだ。でも、ドラマみたいに母娘で肩を寄せ合って生きてないの。母にはいつも男の人の影があって。だから母のようになるまいと思って生きてきたの。」

「でもお母さんと同じ美容師の仕事を選んだんだね。」

光代がポツリと言った。

「そうね。母が髪を切ってくれたり、髪を編んでくれたり、その時間が幸せだったからかな。私が小学生のころには大手チェーンの美容室の店長だったから経済的には大丈夫だったけど、母親らしいことはほとんど駄目で。近所のおばさんとか、おばあちゃんに可愛がってもらってたわ。今から思うといい時代よね。」

 ふと、良子は久美のことを思った。そして、話題を変えようと、光代に話しかけた。

「おばあちゃん。久美ちゃんが辛い思いではなしたものがあるとして、これから、何かをつかめるかしら?」

「どうだろうね。まわりがどうこうしてやれるものではないだろうね。」

 しばらく光代は黙って考えていたが、口をひらいた。

「良子、あんたが久美ちゃんのことを思うなら、灯籠になっておやり。いいかい。灯籠だよ。足元を照らしてあげなきゃ道に迷ってしまうのさ。だけどね、照らすだけだよ。手を引っ張ったらだめだ。久美ちゃんが自分で歩き出すしかないんだよ。」

良子は黙ってうなずいた。

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