第23話

 良子は光代のカットとシャンプーが終わると、念入りにマッサージを始めた。確かに、疲れがたまっているのか、いつもより光代の背中が硬い。光代が気持ちよさそうな表情になってきたのを見計らって、良子は声をかけた。

「おばあちゃん、よかったら聞かせて。」

「いいかい。勇には言うんじゃないよ。息子って奴は、母親は清く正しく美しくあるべきだと思っているからね。敬老会の役員を近所の爺さんと一緒にしただけなのに怒るんだから。」

光代がくどくどと念を押す。

「わかりました。ここはお客様と私、一対一のお店。ここで聞いたことは家族にも言いません。」

「幼なじみの勝っちゃんだよ、私が好きだったのは。」

光代は少し頬を染めている。

「勝っちゃんは近所の小さな鉄工所の息子でね。私と同い年。どちらの家も貧乏人の子沢山。勝っちゃんも私も一番上でね。境遇が似ていたから何かと助け合ってさ。気がついたら好きになってたよ。」

「縁談があった時、勝っちゃんに相談したんですか?」

「相談も何も。よかったな、おめでとうって言われたよ。私はさ、嫁になんか行くなって言って欲しかったがね。後で一人で泣いたさ。」

 光代はしばらく黙っていた。良子は光代が話し出すまで、じっと待っていた。

「姑さんに見込まれて結婚したからって、いいことばかりじゃなかったよ。それでも、日々の暮らしが実家より裕福なんだ。理屈じゃないって。ここに慣れてしまったんだ。悲しいことに。」

光代はまた黙ってしまった。

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