第20話

 潔が出張からもどり、一週間が過ぎた日、朝一番に良子の美容室に光代がやって来て、どさっと鏡の前に座った。

「ああ、疲れたよ。この十日ほど、よく働いたよ。えらいだろ、私。」

「おばあちゃん、潔さんが帰ってからも久美ちゃんのこと、ずうっと、手伝っているものね。」

良子は少し拗ねてみせる。

「良子、怒っているのかい?」

心配顔の光代に

「まさか。それより、おばあちゃん、何だかんだ、久美ちゃんから聞き出そうとしてるでしょ。」 

良子は笑った。

「わかってたのかい。」

「それで、どうだったの。」

「できるだけ、さり気なく、いつからこんな具合だったのとか、食事や買い物はどうしてたのかとか、聞いてみたよ。」

「それで、久美ちゃんは何て言ってるの?」

「ちょっと驚いたよ。ほら、ショッピングセンターで、久美ちゃん、見かけただろう。どうやら、あの次の日から具合が悪くて、私らと病院に行くまで三週間、家から出なかったらしいよ。ネットスーパーやらで買い物して届けてもらってたんだってさ。三週間だよ。潔さんは二週間前から具合が悪くてって言ってただろ。ほんと、鈍い人だよ。一週間、自分の女房の様子がおかしいのに気がつかなかったことになるじゃないか。」

「まあ、潔さんですから。ほら、上手く言えないけど。そうですね。悪い人じゃないけど、どこか浮世離れしてるから。」

光代は吹き出した。それから真顔で、

「まあ、久美ちゃんが潔さんとどんな暮らしをしているか、実際のところわからないからね。母屋と離れで別にいるのかもしれないし。」

と言った。確かに、夫婦のことはわからないと良子も思う。

「久美ちゃんの着るものやらを洗濯したり、タンスにしまったりしたんだけど、ないんだよ。」

いぶかしがる良子に光代は、

「ほら、久美ちゃんがあの日に着てたローズ色の洋服だよ。」

と声を強めた。

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