第19話
勇の車で久美を病院から連れて帰って来ると、光代は久美に付きっきりで世話をやいている。光代が疲れないかと心配する良子に勇は、
「まあ、お袋の好きにさせたらいいさ。工務店のほうも、お袋が抜けてもそれほど困らないから。」
と、のんきに笑っている。
結局、潔が戻ってくるまで、ほとんど光代が久美の世話をしていた。良子は、久美のことが気がかりだったが、光代と二人がかりでは、久美に気を使わせるだけかもしれないと思い、光代に頼まれる食材の買い出し等の手伝いにとどめた。
出張から帰った日の夕方、潔が良子の美容室に立ち寄った。
「家内がお世話になりました。あの、仕事でバタバタしていて、その、実は、新幹線の乗り換えの時に買ったもので、あの、特に珍しい物でもなく、恐縮です。」
潔が差し出したのは、どこのデパートでも売っているクッキーのセットだった。
「いいえ、お仕事で大変ですのに、お気遣いいただきまして。」
光代なら、まったく気がきかない人だね、近くのデパートに売っているものなんか、と悪態をつくだろうが、どう見ても、人付き合いが苦手そうな潔が自分で買って来てくれたのだから、その気持ちは嬉しいと良子は思った。
「久美ちゃんに、お大事にとお伝えください。落ち着かれたら、気晴らしにカットでもさせていただきますから。」
「あの、今後とも、家内のことをよろしくお願いします。」
潔が深々と頭を下げた。そんなことは初めてで、良子は戸惑ったが、潔は、潔なりに久美の事を想っているのだと、嬉しかった。
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