第14話

 光代は深くため息をついた。

「久美ちゃんはお嬢さん育ちで世間知らずだけど、優しい子だよ。あんな偉そうな泉澤の本家になんかにもったいない子だよ。もっと大事にしてやればいいものを。お嫁に来て、きれいな着物姿でうちに初めて挨拶に来た時は本当にかわいらしくて、にこにこ笑っていたんだよ。」

「最初だけだったな。」

勇がポツリと言った。

「あっちは本家だけあって財産持ちだけど、人は財産で幸せになれないって、久美ちゃんを見てたらわかるよ。あっという間に、あの子、疲れた顔になったよな。確か、親父が、さぞかし息がつまるだろう、うちの工務店の事務を手伝いに来ないかって、久美ちゃんに言ったことあったよな。良子はまだうちにきてないから、知らないよな。」

「潔さんの母親が怒鳴ってきたよ。うちは嫁に仕事をさせるほど困ってないって。」

 光代と勇の話しを聞いて、良子は自分とは違った意味で久美は苦労していると思う。

「うちのお義母さんは、気に入らないことがあると何日も口をきいてくれないわ。」

「お義父さんはとにかくお金に細かくて。私達は離れに住んでいるし、家計も別なんだけど、何にいくら使うのか聞いてくるの。」

「潔さんは私が愚痴をこぼすのを嫌がるの。」

美容室で久美が時折こぼしていた言葉を良子は思い出していた。

「潔さんが気がきかないだろう。あの子寂しくて、あんなことに……それに人の噂になったら……」

めずらしく、光代はマイナス思考だ。

「三人で、揃いも揃って、たそがれてるよ。」

「ほんと、お仕事、ご苦労さんとか言ってよね。」

「かわいいお姫のお帰りよん。」

帰宅した子供達の明るい声に良子達は救われた。




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