第13話

久美が若い男性と歩いて行くのを良子と光代は茫然と見ていたが、しばらくしてから光代がかすれた声で

「よ、良子、帰ろう。」

と言った。良子もお茶を楽しむ気分にならず、帰ることにした。帰りの車では良子と光代は無言だった。

夜、勇が帰宅して、三人での夕食になったが、良子と光代の口数の少なさに、

「二人ともどうした。なんか暗いけど。すごい深刻な顔してる。」

と、勇が驚いた。

「今日、おばあちゃんと買い物に行ったら、久美ちゃんが若い男の人とカフェにいて……」

良子は口ごもりながら説明した。

「親戚の子とかじゃないのか。確か、久美ちゃんに弟さんがいただろう。その子供さんとか。」

勇がのんびりした口調で言ったが、光代は

「違うよ。久美ちゃんの弟さんとこは、子供が二人、女の子ばかりだよ。」

と首を横にふった。

「久美ちゃん、見たこともないような明るい顔だった。それにいつもは紺とかグレーとか地味な服着てるのにさ、今日はきれいな色、ローズ色っていうのかね、着てたね、良子。」

「そうだったね。」

良子は相づちをうちながら、久美と一緒にいた男性のことを考えた。瞬間、見ただけだが、年の頃は三十代後半から四十代前半だろうか。端整な顔立ちで、すらっとした背の高い男性だった。普通に考えれば、中年で小太りの久美とは不釣り合いなのだが、漂っている雰囲気は恋人同士のように見えた。だから光代は心配しているのだと、良子は思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る