第10話

「すごくなんかないわよ。勇とは腐れ縁。反対されて別れ話してたのに、行動は真逆でさ、子供できちゃったんだから、まったく格好悪いよ。」

久美はフフっと笑った。

「確かに、あの時は結構うわさになって。でも勇作おじさん、格好良かった。こうなったからにはうちの息子の嫁に迎えますって。家も建て替えて、よっちゃんのお店もつくって。光代おばさんも肝が据わっていて、若い二人が添い遂げるために私達が力をかすんだ、そのための同居だって。嫌味を言ったうちのお義母さんに負けてなかったわ。」

 良子と勇は今でいう「デキ婚」である。もっとも二十七年前のことだから、舅、姑は大変な思いをしたことだろう。泉澤の一族のなかで、泉澤工務店だけが異質だということはすぐにわかった。

 目の前に本家があり、その他の親戚も挨拶にまわったが、久美をのぞいてみんな冷たい目で良子と勇を見ていた。当初は反対していた勇作と光代が何かと良子をかばってくれたことをこの年になるとありがたく思える。

 ただ、良子の母親は勇作と光代に娘をとられたと思い込み、良子とも疎遠になった。母と娘は理解し合うことなく歳月がすぎ、良子の母は十五年前に亡くなったので、久美と同様に、良子にも帰る家はない。


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