第9話

 子供達の帰宅を確認して、良子と久美は座敷に敷いた布団にくるまって、時間を気にしながらもおしゃべりをしている。

「良子ちゃんがお嫁に来てくれてよかったわ。」

久美はしみじみと言った。

「私こそ。久美ちゃんだけだよ、最初から優しくしてくれた人。まあ、私はお嫁に来たっていえるかどうか。」

良子は笑った。

 仲のいい久美と良子だが、生い立ちはまったく違う。久美は代々医者という田舎の旧家のお嬢様で、潔とは見合い結婚である。久美自身は医者になるほどの器量はなく平凡な人生を望んでの結婚だった。久美の両親はすでに他界。弟夫婦がともに医者だが、二人とも病院の勤務で、都会暮らしである。久美の実家は両親の死後売却されたので、久美には帰る家はない。

 良子の母は美容師だったが未婚のまま良子を産んだ。母の影響で良子は美容師になり、美容師仲間の友人の勇と知り合い結婚を申し込まれた。工務店の嫁にならなくてもいい、美容師を続けてほしいという勇の熱意にうたれて結婚を決意したが、勇の父の勇作と母の光代に結婚を反対された。

 原因は良子の母が未婚で子供を産んだことだった。あなたの責任ではないが、どういう家庭で育った人かはとても私達にとって大事なことなんだよ、大事な一人息子の嫁だからね、穏やかな口調だったが、勇作の言葉は良子の胸にささった。

 良子は自分の母親を責めた。お母さんのせいで私は結婚に反対されたじゃないのと言ったが、母はそんな時代遅れなことを言う家の息子と結婚しなくてもいいと言い返し、大喧嘩になった。

「それでも結婚したんだからすごいよ。良子ちゃんと勇さん。」

久美が言った。






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