第5話

 良子は久美のシャンプー、カットを終えると、念入りにマッサージをすることにしている。頭皮はもちろん、首、肩、背中、腰をほぐしていくのだが、久美の体は本当にかたい。久美は出産後、ぽっちゃりと太ったので、一見柔らかい印象を受けるが、体は上から下までかたい。よほどストレスがたまっているのだろう。

 ただ、光代が、うるさくおせっかいをやいているので、良子は余計なおしゃべりを控えている。色白で、若い頃は美人だったのに、泉澤本家での歳月が、久美をくたびれた中年女性にしてしまった。久美はうっとりと目を閉じて気持ち良さそうに良子の手に体をあずけている。

「ありがとう。よっちゃん。とても気持ちいいわ。でも、長いこと悪いから。」

「久美ちゃん、あんた、気を使いすぎ。時計は私が見てるから。」

実際、次のお客の時間がせまっているが、良子はできるだけ、久美のために時間を使おうと思うのだ。

 久美を送り出し、次の客、またその次の客とカットやパーマをこなしていると、午前中はあっという間に終る。基本的に予約制なのだが、通りがかりに入ってくる客もいる。大抵は光代の友達なので、断れない。今日も光代の知り合いの毛染めを終えると午後二時をまわり、遅い昼食を食べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る