第12話 新たな決意

青年の無残な亡骸は、腕に小さな女の子を抱いていた。

その女の子も息はなかったがきれいな顔をしていた。

宗佐衛門はその女の子に見覚えがあった。


「重兵衛とおミツちゃんだ・・・。重兵衛・・・、せっかく仲直りできたばかりだというのに・・・。」

「おミツちゃん?さっき言ってた重兵衛の妹のことか。でも、こんな幼い子まで・・・。」

「重兵衛、おミツちゃん・・・。」


重兵衛の死は、瞬く間に広まった。

彼は兵としても優秀だったのだから、上官たちも特に悲しんだ。


そして、役所に専属していた医者によると、妹を庇ったものの、妹ともども刺し貫かれて無残な結果になったのだろう、という見解であった。


「半左エ門、重兵衛とおミツちゃんの墓参りに行こう。」

「もちろんだ、兄さん!」

二人はできたばかりの重兵衛とおミツの墓参りに向かった。

花を買い、供え菓子を持って。


宗佐衛門は、元々争いごとなどは嫌いな穏やかな人間であった。

稽古ではいつも半左エ門には勝ってしまうことが多いが、いつも重兵衛には負けていた。

時折、引き分けることも増えてきた矢先でもある。

「重兵衛にはいつも負けている私が、あなたの仇討などできるのだろうかね・・・。」

「兄さん、俺にも手伝わせてくれるかい?重兵衛は俺にとっても大事な友達なんだ。」

「ああ。ともに重兵衛を倒した奴を探そう。」

二人は重兵衛の墓前で誓い合った。


半左エ門は稽古後、家の庭でも木刀を振って鍛錬をするようになった。

重兵衛から聞いていたように、少しでも筋力をつけておこうと思ったのである。

宗佐衛門は、家に戻った後も、常に馬と人馬一体になって鍛錬を繰り返した。


宗佐衛門が毎日のように人馬一体となって鍛錬している様子を見た長兵衛は、ぼそりと呟いた。

「おお・・・!一郎かずろう・・・!一郎がおるのか・・・!」

「一郎?」

三平は不思議そうに聞いた。

「あれは兄ちゃんだ!一郎なんて人じゃねぇ。」

「おお・・・。そうだったな。一郎はワシの息子じゃ。稽古に出してすぐ事故で死んじまったけどなぁ。今の宗佐衛門は一郎そっくりじゃ。」

「養父上・・・、宗佐衛門はもっと強くなり、家族を守ります。戦嫌いなどと甘えたことは言っておられません。」

「それは立派だ。だが、おぬしの争いごと嫌いはようわかる。無理に自分を偽る必要はない。」

諭すように長左衛門は言った。


剣術の稽古も少しずつ始めることにした宗佐衛門と半左エ門ではあったが、半左エ門は自分の刀はなく、結局薙刀で武働きすることとなった。

宗佐衛門は、父の安綱を受け継ぎ、ずっと手入れを欠かさなかったので、稽古や実戦の際は安綱の太刀を携えていた。

宗佐衛門は安綱の太刀に血を吸わせることを好まず、基本的には弓を射かけて戦った。

弓でどうしようもないときは太刀を振るい、敵兵を断ち切ったのである。


二人の若者は、切磋琢磨することを忘れなかった。

たびたび暇を見つけては、二人で木刀や木の薙刀をぶつけ合う。

「強くなったな、半左エ門。」

「兄さんこそ!でも!オラも・・・いや、俺も負けない!」

「ああ!かかってこい!」

その様子を見ていた上官は、二人を戦に積極的に起用するようになる。


宗佐衛門はその戦で得た稼ぎは全て家族のために使う。

父に酒を買い、妹に装飾品や服を買い、弟に馬具を買う。

だが、自分にはせいぜい傷薬程度しか買わない。

「兄様の稼ぎですのに・・・。」

「私は良いんだよ、チサ。家族の皆が喜ぶ顔を見られればそれで。」

「ありがたくいただきます、兄様。大切にしますから。」

「うん、それでいいんだ。」

宗佐衛門は嬉しそうに言った。


その頃、家の敷地内には怪しい人影があった。

「あの時の物を返してもらおうか」

暗闇にニヤリと怪しい笑みを浮かべた男は、こそこそと厩へ向かった。

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