第11話 和解
「私たちは、突然連れてこられて、蔵へ閉じ込められたのです。その時に、小さい女の子・・・、名前をおミツちゃんと言います。おミツちゃんが兄とはぐれたとずっと泣いていたので、弟を見ているようで放っておけず、引き離されるまで私が付き添っておりました。」
重兵衛はチサと引き離される前まで無事であったことを知ってホッとした。
チサの案内で、重兵衛と宗佐衛門はとある蔵へ来た。
「お兄ちゃん!お姉さん!」
まだ幼い女の子が重兵衛へと走ってくる。
「ミツ、無事だったのか!良かった。」
ぎゅっと重兵衛はミツを抱きしめた。
なるほど、確かに小さい頃の泣きじゃくる弟を見ているようだ。
と宗佐衛門はそう思った。
性別は違えども、チサは年下の者には特に優しいのだ。
重兵衛は改めて宗佐衛門に向き直る。
「俺も何も事情を話さなくて、つい大人げないことをしてしまったな。本当に御免。」
「いや、私も妹の安否にのみ気が行ってしまって、疑い続けてしまった。本当に御免。」
「お互い、大切なものの為なら必死になってしまうな。ここは改めて水に流し、友としてもう一度親しくしてほしい。」
「ああ。もちろんだ。重兵衛、改めて友としてよろしく頼む。」
重兵衛と宗佐衛門は和解した。
チサは二人の和解をほっとしたように見守る。
宗佐衛門はもう一つの疑問がまだ解決していないことを口に出すべきか悩んだ。
確かに、妹が帰ってきたのならそれでいい、といえばそうだし、もう一つの疑問を解決しなくて歯がゆいような気もする。
「ところで・・・、こんな時に水を差す様で申し訳ないと思うのだが。」
「うん。」
「チサ、お前を連れて行った奴というのは・・・」
「重兵衛さんですね。」
やっぱりか!と言わんばかりに宗佐衛門は重兵衛をにらんだ。
「すまん・・・。実は、もうその時にはミツを人質に取られていて、逆らうことができなかったんだ・・・。ミツを失いたくない一心でな。」
重兵衛は頭を抱えて申し訳なさそうに言った。
「そういうってことは、裏に何らかの人物がいたんだろ?重兵衛は知っているか?」
宗佐衛門は肩をすくめながら言った。
「ああ。馬飼いの親父には子供がいることは知っているか?」
「ああ。息子と娘がいた、という風に話は聞いている。」
「娘さんと奥さんは病気で亡くなったと聞いています。」
「そうだ。だが、息子は訓練の途中で死んだと聞いた、って歯切れの悪い言い方をされたな。」
「・・・やはりか。」
重兵衛は納得した。
「馬飼いの長兵衛のところにいる娘を連れてこい、と俺は言われたんだ。それが、アンタの妹、おチサちゃんだったわけだ。」
「確か、お義父上の娘さんは息子さんを亡くした後に亡くなったんだよな。」
「うん、私も兄様もそう聞いております。」
「だから・・・目的の人物ではないおチサちゃんを家に帰そうということだったのか。実は俺も、全て矢文で命令を下されていて、顔を見ていないんだ。」
「そうだったのか。一人で抱え込むには大変だったな・・・。重兵衛、私はいつでも頼っていいんだからな。」
「ああ、ありがとう、宗佐衛門。」
宗佐衛門はタケにチサを乗せて一緒に帰宅する。
よほど気を張っていたのだろう。
チサは家の中に入るなり、部屋ですぐ眠ってしまった。
「風邪を引いてしまうな。」
チサに綿衣をかけてやり、宗佐衛門は着替えて自分の寝床へと入る。
翌朝
宗佐衛門はいつも通り仕事へと支度をし、タケと共に稽古へ向かう。
半左エ門には一番に、チサが戻って来たこと、重兵衛と和解したことを話した。
それを聞いて、半左エ門はホッとしていた。
「兄さん、重兵衛のやつ遅いな。」
「ああ・・・、珍しいこともあるもんだ。」
いつも先に稽古をしている重兵衛が、その日一日姿を見せなかった。
帰り道。
通りがかった道で、女が悲鳴を上げたのを宗佐衛門と半左エ門は聞いた。
そこにあったのは、若い青年の無残な亡骸であった・・・。
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