第9話 仲違い

宗佐衛門は重兵衛に対して、微妙な心となる。

重兵衛の事は最近親しくなったばかりで、詳しいことなど分からない。

重兵衛も重兵衛で宗佐衛門の心を図りかねていた。

二人はそれとなく距離を置く。

そして、間に入ってくれるのは決まって半左エ門であった。


「兄さんも重兵衛も、なんだか殺伐しているな。」

半左エ門は困ったように言う。

「おチサが心配なのはわかるよ、兄さん。だけど、やたらと疑うというのはやめなよ。おら、頑張っておチサを探すのを手伝うから。」

「私の弟が言っていたことをそのまま言っただけだ。・・・もう何を信じればいい!」

半左エ門は頭を抱えて肩を震わす宗佐衛門にただ黙って傍にいる。

何と声をかければいいのか、そう考えていたのだ。


重兵衛は一人、黙々と稽古に取り組んでいた。

宗佐衛門とのいざこざが生んだうっぷんを晴らすように。

「今日は荒々しいぞ。」

「ああ、あんまり近寄らん方がええな。」

ヒュン、という音とともに、軽口をたたいていた男たちの顔すれすれに矢が飛ぶ。

「すまない、ごちゃごちゃうるさいから手元が狂った。」

悪びれもせず、平然と言い放つ重兵衛に、男たちも怒って襲い掛かる。

だが彼は、二人をかわして裏拳で腹を殴った。

「命があっただけよかったな。今、俺は気が立っているものでね!」

彼は再び弓の稽古に励みだした。


宗佐衛門は稽古にも身が入らず、ついには師範に帰れと言われ、帰宅する。

そんな兄を見つけ、よたよたと歩み寄る三平の手に矢があった。

「兄ちゃん!今日は何でこんな早いんだ?」

「師範に帰れと言われたのだ。」

「体調でも悪いのかな?兄ちゃん、いつも負けずに頑張るのに。」

「そうかもしれないな。・・・その矢、どうしたんだ?」

「そうだった!矢文が届いたんだ!おらは字が読めんから。」

宗佐衛門は矢文を受け取り、読む。

「娘を預かっている、夜九つ(※現在の時間でいう午前0時)に丘に来い、か。」

宗佐衛門はぐしゃりと紙を握った。

「宗佐衛門、なぜ帰ってきているんだ?」

長兵衛は驚いていた。

「養父上、今宵少々出かけます。もし戻らねば、三平のことをよろしくお頼み申す。」

「逢引きか?構わんぞ。おぬしもそれなりの年だ。」

長兵衛はカラカラ笑って出かけることを許した。


宗佐衛門は時間より半刻(一時間)前に家を出ようと玄関に移動した。

「兄ちゃん・・・。はよ帰ってきてね。」

「三平、まだ起きていたのか・・・。早よ寝なさい。」

「うん・・・。兄ちゃん、朝には帰ってきてな。」

「分かった、約束しよう。さあ、もうお休み。」

「わかったよ。行ってらっしゃい、兄ちゃん。」

三平が寝床に行くのを見届けて、宗佐衛門は愛馬のタケと共に丘へと向かった。

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