第5話 元服
宗佐衛門は朝になると決まって、馬の様子を見に行った。
馬飼いの男に養ってもらってから、ずっとそれが日課となっていた。
「兄様、今日はどこに行くの?」
チサは宗佐衛門の後を付いていく。
「おチサか。少し町まで行こうと思う。」
「なら、ついでにお茶とお花を買ってきてくださらない?」
「そうだな。そろそろ父上の供養をする時期だ。」
幼名であった太兵衛の頃に、父と母を亡くし、今の家族は妹のおチサと弟の三平、そして養父の馬飼いの男・・・名は
そもそも引き取られた日など、父を弔ってから移動をし、家に着くとどっと疲労がこみ上げ、子ども三人はすぐにぐっすりと眠ってしまい、正式に名前を聞く事はできなかった。
長兵衛は、養父として様々なことを教えてくれた。
料理などは上手くはなかったが、三人を元気な若者へと育ててくれた。
たまたまの縁がなければ出会うことがなかったはずなのに、困っている三兄弟を助けて育てた。
その為、宗佐衛門は長兵衛を尊敬していた。
「兄ちゃん、おらもついてっていい?」
「三平は今日、
「絶対だよ!兄ちゃん!」
「ああ、約束しよう、三平。」
三平はそれから風邪なども引かぬ、元気な子に育っていた。
事ある毎に、宗佐衛門に「兄ちゃん、兄ちゃん」とすり寄ってくる。
そんな弟が可愛くて、つい宗佐衛門も甘やかしてしまうことがあった。
そして、おチサに二人そろって叱られるのである。
「兄上は三平に甘いのです!それだから三平がいつまでたっても何もできぬ甘ちゃんです。三平も、何でも兄上に頼り切ってはいけません!少しは自分でやることを覚えなさい!」
「誰が一番上のもんかわからんのう」
その後ろで長兵衛はげらげら笑っているのだ。
「養父上・・・、お恥ずかしい限りでございます・・・。」
貫太郎は元服を迎えた。
そして、富永 半左エ門
宗佐衛門は町で半左エ門に会った。
貫太郎、改め徳永半左エ門とは時々町で会って話す。
二人の仲は時が経っても変わらなかった。
「おや、貫太郎・・・、いや、元服したんだったな。」
「宗佐衛門兄さん、おらは半左エ門って名乗ってる。」
「そうか、半左エ門か。」
重永、や幸綱の部分は諱《いみな》と言い、通常呼ぶことはない。
二人は宗佐衛門兄さん、半左エ門と呼び合った。
「半左エ門のおとっちゃんとおっかさんは元気にしているか?」
「おとっちゃんはこの前会ってすぐに死んじまったよ。病気で。」
「それは悪いことを聞いたな。知らなかったんだ。」
「すぐに言わなくて悪かったのはおらの方だ。兄さんが気に病むことはねえ。」
「ありがとう。おっかさんはどうしてる?」
「おっかさんはぴんぴんしてるよ。おらより元気かもしんねえ。」
それを聞いて、宗佐衛門は笑った。
「そうかそうか、元気が一番だ。」
「おチサや三平は元気にしてるか?」
「ああ、いつもおチサには助けられてるよ。三平はまだまだ甘ちゃんだが、元気だ。」
「おチサは別嬪になっているんだろうな。」
「まあ、それなりだと思うぞ。」
宗佐衛門は花と茶を買い、半左エ門は母へと土産を買った。
「長左衛門のおやっさん、元気にしてるかい?」
「ああ。あの人は元気そのものだよ。」
「でも、おらはずっと気になってたことがあるんだ。」
「なんだ?」
「なんで、長左衛門のおやっさんは兄さんたちを引き取ったんだろう、ってな。」
宗佐衛門は今まで不思議とそのことを考えたことがなかった。
たまたま、そう、たまたまだと信じ込んでいたからだ。
たまたま、孤児となった三人を助けてくれたのだと思っていた・・・。
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