人形が人形の世話をしている
女の部屋には、人形用の椅子に座った五体の球体関節人形が置かれていた。その一体一体を女は丁寧に<世話>していく。その世話をしている間の女の姿は、表情が失われ、それこそ人形のようだった。
まさしく、
『人形が人形の世話をしている』
とでも言うべき光景だっただろう。
また、よく見ると、部屋の隅にも人形の姿が散見されるが、こちらはどうやら完全に放置されているようだ。女が関心を失った人形らしい。今はこうして狂気じみた様子で世話をされている人形も、女が飽きればこれらの人形と同じく捨て置かれるのかもしれない。
人形達は、それぞれ虚空をただ見詰めている。当然のことながら、物も言わず、動くこともなく、けれど人間に近い姿を持ったそれらがただ虚空を見詰めているのは、知らずに部屋に立ち入った人間がいれば、もしかすると腰を抜かしたりするだろうか。
かなりリアルな人形のため、薄暗がりだと本当に人間に見えたりすることも有り得そうだ。
しかしその人形達の中に、一つだけ、体がなく首だけの人形があった。体がないので<人形>と言っていいのかどうかは微妙だが、まあ、
<人形の生首>
とでも言えばいいのだろうか。他の人形は、放置されてはいるものの一応、手足も頭も揃ってはいる。なのにその一つだけが、頭しかないのだ。見れば胴体に接続するための部品が折れているので、そのままにされているのかもしれない。しかも、目玉が片方なく、ぽっかりと暗闇が開いているだけである。
眼球も再現されている人形のため、放っておかれている間に外れて頭の中に落ちてしまったのかもしれない。だから目玉のない虚ろな闇がこれまたどこを見るでもなく虚空に向けられている状態だった。
女の姿も、男と同じで異様に白い肌にこれまた異様に細い手足、伸ばし放題の髪がまるで<幽霊>を思わせるのに加え、人形達の姿もやはり<幽霊>のようにさえ見える。
こちらも、<幽霊屋敷>には相応しいと言えるだろうか。
いずれにせよまっとうでないことは確かだ。
なお、こちらの部屋は、扉が二重になっているという奇妙な作りだった。廊下からドアを開けると、奥行き一メートル弱の空間があり、そこにまたドアがあるのだ。その空間は、横方向には四メートルほどの広さがあり、ポールが渡されそこに何着もの服が掛けられていた。なので無理矢理解釈すると、
『廊下側にウォークインクローゼットが設えられている』
と言えなくもないだろうが、それにしても普通はこんな間取りにはしないだろう。その空間にはチェストも置かれていて、メイドはその上に食事を置いていくだけだった。
男もそうだが、徹底的に顔を合わせないようにしているのが分かる。
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