まるで<研究者>のごとく

男は、メイドが食事を持ってきてくれたにも拘らず、ゲームをやめなかった。


いつものことだ。キリのいいところまでやらないと気が済まない性質なので、タイミングが悪いと次の食事の時までそのままということさえある。


しかしメイドの方もわきまえていて、一切、手が付けられていなくてもそれに対して何かを口にすることもない。ただただ機械的に決まった時間に食事を届けに来るだけだ。


この日も、男は結局、食事に手をつけなかった。が、次の食事が届けられた時にはようやくゲームを終了させ、


「……」


一言も発することなくのそりと立ち上がった。そしてまずトイレに行き、それから届けられた食事に手をつけた。


なんと、メイドが食事を差し入れ置くそこはテーブルになっており、男はそこの席に着いて、今度は携帯ゲーム機でゲームを始めた。それは、すでに生産が終了している機種の携帯ゲーム機だった。けれど男にとってはまだ十分にやり込んでいないタイトルがあるらしく、今なお現役で稼働中なのだ。


こうして男はゲームをしながら食事をとり、ゲームが一段落ついたところで携帯ゲーム機をテーブルの上に置いて、また、モニターの前に戻った。


そしてゲーム機とモニターの間に設置された切り替え機を操作し、別のゲーム機をモニターに繋ぎ、ゲームを始める。


男はそれをまるで<研究者>のごとく淡々と繰り返すのである。


おそらく普通の人間が彼の一日を傍で見ていると、最初の内こそ、


『羨ましい』


とも思うかもしれないが、次第に、あまりに人間性を欠いたルーチン作業に嫌悪感を抱き、やがて恐怖すら覚えるだろう。


そう、男の在り方は、もはや<人間>のそれとは思えなくなっているのである。


端的に言えば、生前の執着を死んでもなおひたすら繰り返す<亡霊>のようなとさえ言っても過言ではない。


そういう意味では、<幽霊屋敷>と揶揄されているのもあながち間違ってはいないのかもしれない。


また、男の外見自体、髪は自分で鋏で雑にカットするのでガタガタ、運動不足のために筋肉が失われ、十分に食べないことで痩せ細り、もはや健常者のそれとは思えない様相だった。それこそ<幽霊>に間違われても何もおかしくない。


が、絶対的な筋肉量が壊滅的に少なくはなっているものの、メイドが食事に工夫を施しているからか、実は、数値上は<健康>であったりもする。


だからこそそのちぐはぐな状況が異様とも言えた。


加えて、男はまだ二十代。若さゆえ数値上は健康を保てているだけかもしれない。ゆえに年齢を重ねるごとにそのバランスが失われていく可能性はある。


だが男は、そんなことには欠片ほども関心がなかったのだった。


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