ある種の理想

その男は、物で埋まった薄暗い部屋の中で、ひたすらゲームをしていた。とは言え、モニターは十九インチで、特別大きなものでもない。大きすぎると視界に収まりきらないのでやりにくいそうだ。部屋の中には、さらに大型のモニターもいくつも散見されるので、あれこれ試して今のそれに落ち着いたのだろう。


モニターはテレビ台の上に置かれているが、テレビ台にはぎっしりと多種多様なゲーム機が納められていた。おそらく西暦二千年以降に発売されたすべてのゲーム機が収まっていると思われる。海外製のものもある。すべて通販で取り寄せたものだった。


部屋にはそれこそゲームソフトがうず高く積まれ、おそらく総数は本人も把握していない。


なお、その部屋は、広さ自体は八畳ほどしかないものの、ミニキッチンにおそらく後で強引に設置したのであろうトイレ一体型のユニットバスも設えられ、この部屋だけで生活ができるようになっていた。男はそれだけ、延々とゲームに集中したかったのだろうと思われる。


中学の時に父親が亡くなり膨大な遺産を相続。母親は幼い頃に亡くなっていることもあり、中学を卒業後は一切、就学も就労もなくそのための活動さえしないという、定義そのものの<ニート>であった。同時に<引きこもり>でもある。


しかし彼が相続した遺産は、税金や健康保険料や年金保険料を納めた上にゲーム機やソフトを買い漁る今の生活を続けるだけなら余裕で三百年は続けられるものだったので、実は何の心配もなかった。彼一人が年間で使う金額は食費などを入れても年間二百万円にも満たないのだ。ゲームソフトも、一人でできるタイトルは知れており、しかも飽きるまで一タイトルをやり込むタイプなので、実はそれほど浪費しないのである。下手をすると、家の維持費の方が高いくらいだ。


その彼の部屋のドアがノックされ、ドアの脇に設けられた大きめの郵便受けのような扉が開いて、その前に置かれていたトレーが部屋の外へと下げられ、代わりに食事が乗せられたトレーが置かれた。メイドが用意して届けてくれたのである。けれど、関わりはそれだけだ。彼は余人の立ち入りを一切禁じており、本人の気が向いた時だけ自ら掃除などをしている。


年に数回程度だが。


ミニキッチンは、小腹が空いた時にインスタント食品を自分で作ったりする時にしか使わない。ゴミは適当に窓の外に放っておけば庭を管理している出入り業者が始末してくれる。そしてトイレ一体型のユニットバスも、塩素系のカビ取り剤を自ら塗布しているので、実はそれほど汚くもなっていなかった。


とにかく、いわゆる<引きこもりのニート>の暮らしとしては、ある種の理想と言えるものだっただろう。


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