真紗子
幽霊屋敷
けれど彼女は学校には通っていなかった。両親が通わせなかったのだ。それどころか出生届けすら出していない、いわゆる、
<無戸籍児童>
だった。真紗子の父親は、中学の時に資産家だった親の遺産を相続したことで、これまで一度も職に就いたことがなかった。
また、真紗子の母親は、父親の父親、つまり真紗子の祖父が生前、メイドとして雇っていた女との間に設けた子で、しかし認知はしておらず、メイドが<未婚の母>として生んだ娘だった。だから血縁上は<異母兄妹>に当たるため、本来ならあまり好ましくないことなのだろうが、離れに暮らしていたその異母妹と、互いに恋愛感情などはないままにただ目先の欲望に従って関係を持ち、母親が十四歳の時に真紗子を生んだ。父親もまだ十七歳だった。
とは言え、両親共に子供を育てるつもりなどなかったことから、『別に死んでもいい』と考えつつ自宅で出産。放置し死なせようとした。
しかし、母親の母親であるメイドがさすがにそれは『忍びない』と考え、代わりに育てることにしたのだ。
だが、この頃、母親の母親であるメイドも精神を病んで正常な判断ができないようになっていたこともあって、真紗子を母親の代わりに育てはするものの、そのことを表には出さなかった。
また、真紗子の父親は、遺産を相続した時にはまだ中学生だったこともあり、父親の父親が懇意にしていた弁護士が後見人となって、金銭関係や法的手続きの一切を請け負ってきた。
ただし、家の中に入ることについては真紗子の父親が許さなかったため、そこで行われていた一切については把握できていなかったという。唯一、メイドを通じてやり取りができていただけだ。
なお、真紗子の両親は共に、遊興の類はテレビゲームにしか関心がなく、そして必要なものの一切は宅配を通じて手に入れるため、父親が中学を卒業した後は家の敷地から一歩も出たことがなかった。
さらに、真紗子の母親は小学校の六年の時からずっと不登校で、母親の母親が教員免許を持っていたこともあって<自宅学習>という形で義務教育課程についてはこなし、行政の干渉をも排除してきた。
こうして、まるで社会にぽっかりと開いたエアポケットのように、周囲から完全に隔絶された環境が出来上がってしまったのである。
このことによって、真紗子が暮らす家は、周囲から、
<幽霊屋敷>
とも呼ばれるようになっていったそうだ。
これは、そんな異様な家に暮らす、一人の少女の話である。
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