夏休みの違和感
ニイニイゼミを爆竹で何匹も爆砕した
けれど、<虫を虐げる遊び>そのものは続き、<泰規の思うオオクワガタ>を探し求めるのもまだ続いていた。
しかし、そうやって夏休みも半ばを過ぎたある日、泰規は、家の中が何とも言えない雰囲気になっていたことに気付いた。
誰もいないのだ。別に家に一人きりになること自体はそれほど珍しくなかったものの、それにしても何とも言えない雰囲気だった。何かがおかしい。何がおかしいのかは分からないのに何かがおかしいのである。
そこで泰規は、弟と尻相撲で遊んでいて勢い余って弟が掃き出し窓に突っ込み割れたガラスで大流血するという事件の後で窓が修理されていた子供部屋を出て、まずは何となくダイニングキッチンに向かった。
その途中も、空気が何とも不可解なくらいにねっとりとしているような、まるで水の中にでもいるかのような重苦しさがある。
それをかき分けてようやくダイニングキッチンに辿り着くも、そこにも母親の姿はなかった。静まり返ったそこには。いつものように蠅とり紙が吊るされていて、いくつもの蠅が捕らえられていただけだった。
だから次は、風呂場に向かった。風呂の掃除でもしてるのかもしれないと考えたからだ。風呂場の扉を開けて覗き込むも、やはり誰もいない。しかし、一瞬、視界の隅を何かが動いたように見えて視線を向けるも、なにもいなかった。
「……?」
何となく腑に落ちないものも感じつつ次は風呂場の正面にあるトイレを覗いてみた。泰規の家のトイレは汲み取り式で、化粧タイルで綺麗にはされているものの便器には便槽に繋がる深い穴が開いていて、念のために覗き込んでみたが真っ暗で何も見えなかった。
「……」
そこで泰規は、廊下を進み、玄関の前を通り抜け、突き当りのテレビがある居間へとやってきた。けれど、そこにも誰もいない。座卓の上には、かつて赤ん坊だった泰規が食べて死にかけた煙草の吸殻がまた山盛りのままで放置されていた。
さらに、居間の隣にある両親の寝室として使われている床の間がある部屋も覗いてみたがやはり誰もいなかった。ただ、
「あ……」
洗濯機が動いている音がした。だから母親は洗濯のために外に出ているのだと悟った。裏庭にも通じているガレージの奥が洗濯場になっていてそこに母親はいるだろう。
何となく納得がいった泰規は子供部屋に戻ろうとしたものの、彼はなぜか失念していた。子供部屋と居間の間。玄関を上がった正面には<客間>があったことを。
そのことに、ようやく気付いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます