ニイニイゼミの末路

そんな泰規やすきだったが、小学校の一年生になり初めての<夏休み>を迎えて、毎日を満喫していた。


その中で彼は、お小遣いで<爆竹>を買い、それを破裂させては遊び始めた。


最初は土に少し埋めて破裂させ、小さなクレーターのようなものができるのを見て楽しんでいたがそれもすぐに飽き、別の遊びを思い付いた。


山の中で、周りには桃畑が多かったからか蝉がいくらでも採れた。実際にはそのほとんどがニイニイゼミだったが、とにかく庭の池にいた鯉の餌にしても惜しくない程度には簡単に採れた。


なお、庭の池で飼っていた鯉については、両親もまともに世話をしなかったからか次から次へと死んだため、残りを近所の人に譲り渡して池の水も抜いてしまっていた。なのでニイニイゼミをバラバラに解体して鯉の餌にする遊びはできなくなったこともあり、その遊びを思い付いたのかもしれない。


『飛んでる時に爆発したらカッコいいかも』


と。


つまり、蝉に爆竹を抱かせて飛ばして空中で爆破すれば面白いかもしれないと考えたのだ。


こうして、大量のニイニイゼミを捕まえて虫籠に入れ、取り出したそれに爆竹を掴ませて火を点け放してみる。


けれど、ニイニイゼミはすぐに爆竹を放してしまい、ただ地面に落ちて破裂するだけだった。


泰規はそうして何度か爆竹を掴ませて火を点けて放してみたものの、どれも破裂するまで掴んでいてくれず、すぐに放して地面に落ちてしまうのだ。


当然か。蝉は蜻蛉とんぼのように獲物を捕まえたまま飛んだりする習性はない。だから爆竹を掴んだまま空を飛ぶ理由がないのである。しかしまだ小学校に上がって四ヶ月も経っていない泰規にはそれが理解できなかった。


なので痺れを切らした泰規は、タコ糸を持ってきてそれでニイニイゼミの体に爆竹を括りつけてしまうという強硬手段に出た。


すると今度は、爆竹は落ちなかったもののニイニイゼミが放した途端に地面に下りてしまってそこで爆竹が破裂、ニイニイゼミも爆散するという形になった。


『爆竹で蝉が爆散する』


というのは見られたが、泰規が見たかったのはあくまで<空中爆破>だった。そこで彼は、蝉を自力で飛び立たせることは諦め、導火線ギリギリまで待ってから自分の手で空中高く放り投げて爆破することを思い付いた。


だが、ニイニイゼミが地上に降り立ってしまうのは、ニイニイゼミの小さな体ではおそらく爆竹の重量を支えるのが負担なため、すぐに地上に下りてしまうのだと思われる。だから、


「ふんっ!」


勢いよく空中に放り投げたニイニイゼミは、『飛ぶ』と言うよりは明らかにただ空中でもがいただけで、その放物線を描く途中で爆散しただけだった。


『……なんか違う……』


自分が頭の中で思い描いていた光景が再現されなかったことで泰規は急激に関心を失い。虫籠の蓋を開けた状態で放置。家に入ってしまったのだった。


こうして家の周囲には、爆竹で爆砕されたニイニイゼミの死骸がいくつも散乱しただけに終わったのである。


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