ヘビイチゴの精
なお、
だからその日も泰規は、学校帰りに、野苺の実を一つ二つと摘まんでは食べていた。ちなみに、泰規達がおやつ代わりに食べていた甘く食べられる野苺は<クサイチゴ>呼ばれる品種だったと思われるが、そこからさほど離れていない場所に<ヘビイチゴ>と呼ばれる食用には適さないものも生っていつつ、泰規達は幼いながらもしっかりと見分けていて、間違えて食べてしまうことはなかった。
もっとも、それは本人達が覚えていないだけで、もっと幼い頃に間違えて食べてしまって美味しくなかったことで懲りて見分けがつくようになった可能性はある。
大人達から『勝手に食べないように』とは言われた覚えがないので、おそらく毒がある種は生えていなかったのだろう。
なお、<ヘビイチゴ>と呼ばれる品種の方は、別に、
『蛇が好んで食べるから』
的な意味でそう呼ばれているのではなく、
『不味いから蛇にでもくれてやれ』
的なニュアンスでそう呼ばれるようになったとも言われているそうだ。けれど、この時、泰規は、アオダイショウと思しき蛇がヘビイチゴを咥えようとしている姿を見掛けた。見掛けたのだが、何か様子がおかしいと、彼は思った。
アオダイショウらしき蛇が咥えようとしている<赤い実>が動いているように見えたのだ。動いて、蛇から逃れようとしているように見えたのである。しかも、泰規はそれを見て、
『小人……?』
と思ってしまった。そう。ヘビイチゴのように見えたそれは、
<ヘビイチゴに似た赤い頭を持つ小さな人間>
だと、泰規の目には見えてしまったのだ。いくら小学校に上がったばかりの子供とはいえ、<小人>などというものが実際には存在しないと泰規は思っていた。それどころか彼は、物心つく頃にはすでに、
『サンタクロースはいない』
と悟っているような可愛げのない子供であった。なのに、この時には、
<蛇に食われようとしている小人>
の姿が見えてしまったのだ。にも拘らず彼は、別に驚くでもなく、ただ小人(と思しきもの)が蛇に丸呑みにされるのを黙って見ていたのである。
「ギャーッ!」
という小さな悲鳴も聞こえた気がしていたというのに。
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