あのうるさい女子とかにも

泰規やすきの家がある集落への道は、自動車がそのままではすれ違えないほどに狭く、ただのコンクリートで舗装された粗末なものだった。


『静かで空気が綺麗』


と言えば聞こえはいいものの、要するにただの<田舎>である。


しかし当時の泰規はそのことについては特に気にしていなかった。学校が遠く登下校がとにかく面倒だと感じていただけで。


だからとにかく、どうにかして学校をサボれないかということを考えていたりもした。学校自体も好きではなかった。


そんなある時、学校で<スカートめくり>が流行り、問題になったことがある。それ自体は当時の男児ならほとんどが一度はハマるものという認識だったかもしれないが、泰規はそういう点ではひどく冷めたところのある子供で、


『バカじゃないのか? こいつら……』


と内心では思っていた。ゆえにひどく『ノリの悪い』子供ではあったものの、クラスの男子のほぼ全員がスカートめくりをしたということで立たされる中、泰規ともう一人の男子生徒だけが一切そういうことをしなかったという形で叱責を免れた。


ただこれも、彼が<真面目>とか、<正義感が強い性格>だからではなく、当時の泰規は単純にそういうことに関心がなかっただけである。それよりは、虫を潰して遊ぶ方が楽しかったのだ。


学校でも、校舎裏に蟻の巣などを見付けると、ジョウロに水を汲んできて巣に水を注ぎ込み、蟻が慌てふためく様子を見ているのが楽しくて仕方なかった。


もっとも、蟻の巣というのは実は、雨などに降られても巣のすべてが水没しないように上手くできているので、壊滅的なダメージを受けているわけではなかったのだが、幼い彼にはそれに関する知識がなく、表面上、蟻が慌てふためいているように見えるのが楽しいという、他の男子生徒の<スカートめくり>と大差ないくらいに愚かであさましい行為でしかなかったのだが。


にも拘わらず、『泰規がスカートめくりをしなかった』というだけの理由で何人かの女子から高評価を受けてなぜか構ってもらえたものの、やはり彼は『女子と仲良くする』ということ自体に興味が持てず、一方的に構われることにはまるで社交辞令のように調子を合わせていたりもしつつ、その一方では、構おうとする女子達の目を盗んでは校舎裏などに潜み、蟻などを虐げる遊びを繰り返していたのだった。


それどころか、


『あのうるさい女子とかにも、こんな風にできたらいいのに……』


そんなことも考えていたりしたのだという……


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