とみたのおじいちゃん

泰規やすきの父親は、先にも触れたとおり、


『葬儀屋に様々な祭具の貸し出しを行う』


という仕事をしていた。そのための物品の多くは、家に併設されたガレージに保管されていた。なお、そのガレージは、泰規の家の敷地に接する<ほぼ平屋一軒分高くなった畑>とおおむね面一になる形で屋根が作られ、その屋根は、樹脂製の波板で構成されていた。


それもあって泰規は、よく、畑の側からガレージの屋根に上って遊んでいたという。両親もそれは察していたが、


『子供がそれくらい元気がある方がいい』


と考え、特に諫めることもしなかった。しかし、当時よく使われていた樹脂製の波板は、紫外線などにより数年で劣化し脆く壊れやすくなるというものだった。それこそ、子供の力でもペキペキと割ってしまえる程度には。


両親はどうやら、それを知らなかったらしい。もしかすると父親は知っていたかもしれないが、子供に特段の関心もなかったからか気にもしなかったし、母親はそれこそ知識そのものがなかったと思われる。


そしてある時、それまではかろうじて泰規の体重に持ち堪えていた波板は限界を迎えて崩壊。泰規は、高さ二メートル五十はあったガレージの屋根からコンクリートで舗装された地面へと頭から転落した。


この時の、「ゴッ!!」という音と衝撃を、彼はずっと忘れなかったそうだ。


実はこの時、泰規の弟も兄についていってガレージの屋根に上っていたのだが、体重が軽かったことでかろうじて波板が持ち堪えてくれたらしく、転落は免れた。そして兄の転落に驚いた弟がショックのあまり泣き叫び、それに気付いた母親が慌てて外に出てきて、ガレージの中でぐったりとしている泰規を発見、部屋に布団を敷いて寝かせた。


状況からガレージの屋根から転落して頭を打ったことは明白だったものの、母親は救急車を呼ぶことはなかった。救急車を呼んだりしたらどんな噂を立てられるか分かったものじゃないと考えたらしい。加えて、子供をちゃんと見ていなかったことで怪我をさせたと知られるのを恐れたようだ。


コンクリートの地面で痛打した泰規の頭には、恐ろしいほどに大きなこぶができていた。


こうして、アイス枕で瘤を冷やされていた泰規は数分で意識を取り戻したものの、その際、


「……おじいちゃんは……? とみたのおじいちゃん……」


と母親に問い掛けた。しかし、


<とみたのおじいちゃん>


というのは、母方の祖父であり、この時点ですでに故人であった。しかも、泰規がまだ二歳になる前に亡くなっており、しかも顔を合わせたのも一度か二度しかない相手だったのだ。


それを聞いた母親は、


『まさか、あの世でお祖父ちゃんに会ってきたってこと……?』


と、背筋が寒くなったのだという。


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