アブラムシの命
また、当時、
ただ、そこに生えていた野菜に時折大量の<アブラムシ>がついてることがあって、小学校に上がる前の泰規はそれを一つ一つ木の枝で潰していくという<遊び>をしていたりもした。
別に楽しいわけではない。ただ、自分の力で小さな命が一つ一つ潰れていくことに何らかの愉悦を見ていたのかもしれない。
そしてそれは、日が暮れるまで続いた。母親も息子の異様な遊びには気付いていたものの、害虫を駆除してくれる分には煩く言う必要もないと感じて放置していた。
すると泰規は、来る日も来る日もアブラムシを潰し続けた。野菜に付いたアブラムシを潰し尽くすと今度は周囲の雑草に付いていたアブラムシも潰し始めた。
淡々と、ただ淡々と。まるで何かに取り憑かれたかのように。そうして泰規が奪ったアブラムシの命は、少なくとも数百に及んだだろう。それ自体は、農業でもしていれば虫害を防ぐために殺虫剤を使ったりもするので何も咎められることはないはずだ。
とは言え、何か達成感があったわけでもなく、やがて飽きたのか、泰規はアブラムシのことは見向きもしなくなった。
近所の子供達と遊ぶようになったからというのも理由の一つかもしれない。
近所には、泰規と同じ歳の<ヨシヒロ>と一歳年下の<ユキヒサ>という共に男児がいて、いつの間にか一緒に遊ぶようになっていた。そしてある時、泰規は、コンクリートで固められた用水路の脇に積まれた土を、自分もかつて使っていて、今は弟が使っている三輪車で登ろうという無謀な挑戦をし、ヨシヒロとユキヒサの前で、派手に後ろ向きに一回転するという失態をやらかしてみせた。
この時点で五歳になっていた泰規にはその三輪車はさすがに小さくてバランスが元々悪かったところに急な坂になっている土を登ろうなどという意味不明なことをすればそうなって当然という結果だったが。
しかしその失敗がショックだったのか、その後数日の間、泰規はまたアブラムシを延々と潰すという奇行を再発させもした。
とは言え、それも数日だけのことで、その後はまた、ヨシヒロやユキヒサと遊ぶようにはなった。
が、翌年、泰規に仲間を殺されて奪われた勢力を取り戻そうとでもするかのようにアブラムシが大量発生。それに辟易した母親はこの年を境に家庭菜園をやめてしまったそうだ。
手間をかけて野菜を育てるよりもスーパーで買った方が楽だし早いと学んだらしい。
ある意味、人間がアブラムシに敗北したとも言えるだろう。
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