ダンゴムシの墓場

当時、泰規やすきが住んでいた家の近所には、一件の倒壊した家が残されていた。それは地主の先祖代々の家だったそうだが、当代の地主が新しく別に家を建ててそこに移り住んで放置しているうちに、自然と倒壊したらしい。


そしてそこは、泰規にとっては遊び場の一つだった。何しろそこには、<一銭硬貨>がなぜか大量に残されていて、幼い泰規にはそれが<財宝>のように思えていたようだ。


もっとも、昭和二十八年に銭及び厘単位の硬貨や紙幣の法律上の価値が失われたため、泰規がそれを拾い集めていた時点でもはや<財貨>として意味をなさないことで捨て置かれていただけである。


聞くところによると、先々代の家長がいわゆる<タンス預金>的に家に現金を貯め置く癖がある人物だったそうで、それで大量に銭硬貨及び紙幣・厘硬貨及び厘紙幣を貯め置いていたのだが、貨幣の主軸が<えん>へと移り変わっていく時代の流れを理解できず両替を渋っているうちに事実上<かね>としての価値が失われてしまい、それが基で次の家長に実権が移った際に家族からも愛想を尽かされ、さらに家長の座が次の代に移って別に新しく家を建てて他の家族がそちらに移り住んでからは一人古い家に取り残され、ある日、飯の用意をしに来た孫の嫁によって炬燵に横になったまま死んでいたのを発見されるという最後を迎えたそうだ。


しかし、家族全員から疎まれていたこともあり、葬儀もおざなりなもので済まされ、家はそれこそ朽ちるに任せて放置されたとのこと。


それが今、泰規にとっては、


<財宝が眠るダンジョン>


のように見えているというわけだ。さりとて、完全に倒壊しており中にはまったく入れないので、崩れ落ちた屋根と地面の隙間が、高さ五十センチほど、奥行きは一メートル弱という感じの、まあ、幼い子供が潜り込む程度ならいかにも冒険心をくすぐられそうな状態になっているだけである。


泰規はそこに潜り込んでは一銭硬貨を<発掘>し、家に持ち帰っていた。


厳密にはこれでも<窃盗>には当たるのだろうが、地主も大量の一銭硬貨などが残されていることを知りつつ完全に放置、権利そのものを放棄している状態だったので、誰も咎めなかったのだろう。


ただ、そこにはなぜか大量の<ダンゴムシ>も生息していて、泰規はそれも戦利品のようにして持ち帰ったりもしていた。もっとも、世話をするわけでもなく自分の家の庭にビンに入れて放置しているだけなので、すぐに死んでしまっていたが。


しかも死んだダンゴムシを庭の隅に適当に捨てるので、さしずめ、


<ダンゴムシの墓場>


のようになっていた。


なお、その廃屋のあるじであったかつての地主が孤独死した際、不可解なことに部屋に何匹ものダンゴムシが上がりこんでいたらしいことについては、この時の泰規は知らなかったのだった。


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