最終話前編「恋人の日」
雪が降り注ぐあの日、いつかの思い出の地で、私たちは口づけして結ばれた。
それから約2ヵ月が経ち、年を越え新学期に臨んだ。
そしてもうすぐあの日が来る。
バレンタインデー。
女子だけが贈り物するなんて不平等だ、きっとお菓子メーカーの策略だ。
頭ではわかっていても、心は落ち着かない。
彼は期待してるだろうか?私みたいにソワソワしてるのだろうか?
今年のバレンタインデーを迎えるのが少し怖いです。
「材料いっぱい買ったね!いくら風舞くんでもそんなに食べられないんじゃないか?」
「かかか、カザマだけのためじゃないし!ほかのみんなにもあげるからいっぱい材料用意してるだけで、そもそも私がチョコ好きだから腕を上げたいというか自分用においしいの作ろうと思っただけというか…もう!父さんの作らないからね!!」
「ハハハ、これ以上からかうとチョコもらえ無さそうだからやめておこう……でもいいものができそうだね、がんばって!僕は署のほうに行ってくるよ。」
「…………うん!」
というわけで、明日のバレンタインデーに向けて、私は今大奮闘中です。
父さん前までは私に対して畏まってたのに、最近はすっかりカザマとリクのように私をからかうので、ちょっと気に食わないかも。
でも、我が家はもう私一人だけじゃない。
家に帰ったら「おかえり」と言ってもらえる。家に帰ったら自分で照明をつけなくていい。
これが家族なんだなと最近は身に染みて実感する。
だから、父さんはムカつくしまだ許せないけど、材料余ってるし時間もあるので、チョコレートあげるくらい別にいいだろう。
そんなことも考えながら、私は一日中チョコレートを作り続けた。
夕方ころ、最後のチョコレートを仕上げたところに彼女が現れた。
「アーーーオイッちゃん!!!」
「!…待て!!リクはキッチンに来ないで!!」
遠慮なくドタバタと家に入ってきたリクは危険な怪獣なので、決してキッチン周りに近づかせないように強く警戒した。
「イヤだもんね~!ぎゅっ!」
「ちょっと!抱きつかないでよ…」
私にはお構いなしに抱きつくリクはきっと、よっぽど嬉しいことがあったのだろう。
「聞いて聞いて、進学先決まったよ!第一志望合格!!」
「ホント!受かったの!?おめでとうリク!!カザマにはもう伝えた?」
「ううん、まだ。」
「そっかそっか…良かった~合格して安心したよ!あとでみんなにも伝えだけて!」
「わかった……まあひとまず私の話は置いとくとして……」
リクは抱き寄せた私の肩に手を置き、少し離れて小声で質問してくる。
「ねっ、カザマとはどこまでいったの?」
「へ?……か、買い物はこの間行ってきた、よ!」
それを聞いた途端リクはいたずらっ子の表情から一気に落ち込む。
「なによそれ、いつもの家族の買い物じゃない…何か進展ないわけ?」
「進展って言われても……あ!手は繋いだよ!!」
「ほうほう!」
「……でも途中でなんか気まずくなって、結局いつも通りの買い物になっちゃったけど…」
「えぇ~~もう付き合って2、3ヵ月でしょ、今時小学生でももうちょっと進んでるよ…」
「で、でも相手がカザマだから、なんか恥ずかしくて……それに、カザマもこうしてほしいとか、よ要望というか、そういうのないし……カザマは本当に私のことが好きなのかなって……」
リクは心底がっかりしたため息を大きく吐く。
「好きに決まってるんでしょ!まあ、当事者だとわかりにくいものね。」
「それは……」
否定はできない。実際私たちは付き合う前のほうが互いのことを冷静に見れてた。
「あ、イイこと思いついちゃった!ねっスマホ貸して!」
なんかすごい嫌な予感がする。リクが何か思いついた時はだいだい私が大変に目にあう。けれど、彼女の強引な勢いに勝てず、私はスマホを奪われてしまう。
「リク…何する気?」
「へへ…まずチャット開きます。そして……あった!カザマとの会話!」
嫌な予感が的中した!チャット見られるのはさすがに恥ずかしい、というかなんで人の携帯奪って勝手に会話履歴見てんのこの人!
「ちょっと!!見ないでよ!」
「【布団干した。】【
「はぁあああ!!なんで見ちゃうの……もうリクのバカ!!」
「いやいや、そこまで恥ずかしがる会話じゃないでしょ…なんなら付き合う前からこんな会話してたじゃんかアンタたち…熟年夫婦かっての…」
え?そんな熟年夫婦かな?いいなぁそれ…
じゃなくて、私的には結構ドキドキしたやり取りなんだけど…
そもそも、付き合ってからチャットするのにもいちいち勇気を絞って送信しなきゃいけないから、だいぶ攻めた会話のはずなんだけどな……
「あなたたち、とっっっんでもなく不器用ね…まあいい、私がカザマの気持ちを確かめだける。…入力っと。」
「え、何する気?」
「大好きなカザマへ 明日はバレンタインデーなのでデートします。拒否権はありません。めちゃめちゃかわいくキメて行きますので、覚悟してください♥️また、彼氏のあなたもきちんとオシャレしてから出かけましょう。以上。っと、これで送っちゃうね。」
「まてまてまて!!その文面はキモすぎる!?絶対に送らなっ…」
「よーーし!送信!アオイちゃんよ、私に感謝することね!」
「感謝なんてするもんか!!こんなチャットなんか送ったら恥ずかしくて顔合わせらんないよ!はぁああああーーーー!!嫌われたらどうしよう…ハートマークとか気持ち悪すぎる…キモイ女って思われたら、これで分かれちゃったらどうしよう、まだキスは1回だけでもっとしたかったのに…リクあなた最低だから!!!」
「落ち着けって、アオイちゃんアンタ早口になりすぎ……ってほら。」
リクは私の目の前にスマホを掲げてみせた。そこには先ほど送信された気味の悪いチャットとそれに対しての返信が映っていた。
「【わかった】………って!やったぁ!!明日カザマとデートだ!!ありがとう、リクって最高!!」
「ワ~、すごい掌返し……まあ、ともかく明日私の部屋において、化粧とか色々手伝ってあげるよ。」
「よろしくお願いいたします、師匠。」
「よぉし!ほら、明日渡すチョコの準備進めちゃって。」
「はい!」
こうして、私の16歳のバレンタインデーはカザマとのデートで迎えることになった。
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