第15話「親子」

 文化祭を終えると、あっという間に冬がやってくる。


 たった1ヶ月しか経ってないのに、その記憶はなんだか遠く昔の思い出となった。


 一時期はカザマともリクとも壁ができ、彼らから離れようとした。でも文化祭の後、二人はそうはさせまいと私に距離を詰めてくる。


 私としてはうれしいが、二人はどういう関係になっているのかがわからない以上、正直扱いに困る。



 カザマへ確認しに行っても誤魔化してくるし。そもそも二人の恋を応援しろと頼んできたくせに、なんで現状報告してくれないわけ……


 「いいかげん教えなさいよ!!リクとどうなってんの?」


 「何もねぇって言ってるじゃん。」


 「そんなわけないでしょ!二人してずっとベタベタしてくるし……てか白状しないと、今後私の料理を食べられると思うなよ。」


 「ええ~~」


 最近リクはずっと放置気味だった進学先の件を急に取り組むようになって、そのおかげで私とカザマが一緒に帰ることが増えた。



 今まで進路の話をするとすぐにはぐらかされたり、話題を変えられたりして、リクはどこか自分の将来に対して後ろ向きなところはあったけど、どうして急に前向きに取り組むようになったんだろう…


 理由はわからないけれど、これって良い傾向だよね?


 リクへの安心感のおかげか、今日の足取りはいつもより軽やかな気がする。


 そうこうしてる内に、私とカザマは自宅についた。自宅と言っても鷹過家だけれど、正直自宅というものにたいしての認識は、鷹過家と雲谷家に境目はほとんどない。



 「今日はこっちで過ごす?」


 「うん、エアコンの業者明日来てうちのを直すから、今日はこっち。それに今日藍おばさん戻れないから、アンタの面倒見てろってさ。」

 

 「ラジャー!……じゃ、今日は大乱戦バトルやるか!」


 「嫌だね、どうせサンドバッグにするつもりなんでしょ。」


 「バレた?笑」


 意地悪なカザマを軽く叩きながら、玄関のドアに鍵を差し込んで回す。



 「!………開いてる。鍵閉まってない…」


 「え?朝ちゃんと閉めたよ!見たよな?」


 ちゃんと閉めた。今日は一緒に登校したので、鍵がちゃんと閉まってあったはず。


 もしかして、藍おばさん?いや、そんなはずがない。たった5分前に同窓会の集合場所についたとチャットで知らせてくれたもの。


 「うん、見た……これ、誰か入ってたり、しないよね?」


 「え、待って、めちゃこわいんだけど……」



 私たちは恐る恐るにドアを開け、物音を立てずに家の中へと入っていく。


 玄関では誰もいないようだが、足元には一足の見覚えのない革靴が置いてある。


 「(…ねぇ、この靴だれのか知ってる?)」


 「(わかんねぇ、見たことない。)」


 「(今思ったんだけど、これ普通に藍おばさんのお客さんじゃないの?ドアはこじ開けられてないし、靴もちゃんとそろえて置いてるし。)」


 「(確かにお客さんかもな………じゃあ、ちゃっちゃっと中に入る?)」


 「(怖いけど……モジモジしてもしょうがない!!)いくぞ、カザマ!」


 「おいおい、マジかよ!?」



 怖気を吹き飛ばすように、私は気合を入れて勢いよくリビングの扉を開く。


 いきなりドーンと大きな音が鳴って驚いたのか、リビングのソファに座っていた人物はビクッと立ち上がり、背後に位置する私たちのほうに振り向く。


 「!……ーーーえーーと…おかえりなさい、二人とも。」


 私たちに声をかけたのは、灰色のスーツ姿で見た目4、50代の男である。


 少し白髪が混じったスポーツ刈りにサングラス。チャラついたアクセサリーはなく、スーツを折り目正しく着こなすこの男は何となくイギリス紳士をイメージさせる。



 「……ーーーー誰?こんなに暗いのにサングラスですか…」


 「…サングラス?あぁ、すまない。あまり気持ちの良いものではないが、気になるのなら外そう。」


 男の両手は黒い手袋をはめており、慣れない手つきでサングラスを取る。


 「…!」


 目線を上げて改めて私たちを見る男の両目は、変な挙動をした。正確に言えば、


 「ちょっと前に右目をやられてしまって、今は義眼を使っている。気分を害してしまったら申し訳ない。サングラスかけるから。」



 「…いや、特に気分を害するものじゃないけど……そんなことより、おじさん誰?ここ俺の家なんだけど?」


 男は小さく驚く。なぜだろう、この男は初対面なのになぜか目を離せない。それになぜか彼の動きに見覚えある気がする。


 「君は、風舞くんか…てことは、その横の君は、アオイだよね?藍さんから聞いてないのか?…そうか……僕は雲谷 集くもたに しゅう。アオイの……父だ。」


 父…?父って、私のお父さんってこと?


 その言葉を聞いて、私の頭の中身は沸騰するお湯のように何もかもがなくなって、思考停止した。


 真っ白になった私の頭から小さな黒い染みが現れる。この染みはどんどん周りを侵食し、気が付いたらさっきまで真っ白だった脳内はいつの間にか漆黒に染め上げられ、私の体を支配する。


 「アオイのお父さん、ですか?」


 「ええ、アオイに…」


 「その名前を呼ばないで……」


 「あ、ーーーーーー……」


 私の様子が気になったカザマは声をかけてくるが、なぜか彼の声は一切私に届かない。



 「出て行って!!今すぐに出てけよ!!!お前なんか見たくない!!!」


 父と語る男は目を隠すように、またサングラスをかけた。


 「…………すまない。外にいるから落ち着いたら、話をさせてもらえないか?」


 「……ーーーーー…」


 男は荷物を持って、家の外に出ていく。


 自分でもなぜこんな風に彼を怒鳴ったのかわからない。母親は自分が生まれてすぐに亡くなったのは知っている。母はどういう人物か、たまに藍おばさんから話を聞いたりして、ある程度知ることはできた。




 でも父親は違う。


 父親はどこかで生きている。


 私が知る父親の情報はこれだけ。


 父親は生きている。


 父親は生きている。




 父親は生きているくせに、私を独りにした。私を捨てた。




 私はというものを知らないのに、という未知なものに対しての憎しみと悲しみだけが積み重なって成長してきた。


 どう接したらいいかなんて知らないのに、今更接しなければいけない。


 だから、16年間溜まり続けた澱みが燃料となって爆発した。


 「アオイ、大丈夫か?」


 「……あの人まだいるか見てきて…居たら通報して。」


 「何言ってんだよ、まともそうな人じゃないか。話くらい聞いてきたら?」


 まともそう?カザマこそ何言ってるの?まともな父親は子供を16年間も放置するわけないでしょ!


 「アンタの目にはマトモに見えるんだ…だったら私の代わりに話して来たら?」


 「落ち着けアオイ。話すべきなのはお前だよ。何か大事な理由があるかもしれないだろう!」


 「そんなものあるわけないでしょ!カザマは私の味方だよね?」


 「当たり前だろ。いつだってお前の味方だ。」


 「だったらなんで私よりあんな最低なクズの肩を持つのよ!!」


 「確かに16年間も姿を見せないのはゆるせない。でも軽々しくクズって認定しないほうがいい。あいつはお前を殴ってもなければ、金をくすねてもない、それに脅迫もしてないだろ。会話くらいしてみたらどうだ?」

 

 「…その分愛情もくれてないでしょ。何が今更対話だよ!そんな親の話なんて聞けないし聞きたくもない!なんなら初めからいらない!さっさと消えちまえばいいのに。」


 カザマは私の両手を掴み、壁に押さえつける。その力はあまりにも強く、どれだけ抗っても彼の手はびくともしない。


 「…放して!!なにしてんの!?」


 「そんな簡単にいらないって、消えちまえって言うんじゃねぇよ!あの男はクズじゃないって可能性があるし、お前は仲直りして幸せになれる可能性だってある!!なのになんで手放そうとするんだよ……俺はどんなに願ったってもうその可能性はないんだよ!!」




 「……カザ、マ……」


 兄の眼は充血し、溢れる涙は彼の頬を伝って滴る。私を押さえつけていた両手はいつの間にか力が抜けていた。


 押さえつけられているものがなくなった私は自由になったが、心と視線はより深く彼に囚われてしまった。


 「……お前が羨ましくて、羨ましすぎて…俺の勝手な願いを押し付けてるのはわかってる………」


 「泣かないで、カザマ…」


 彼に泣いてほしくなくて、私は両手で兄の顔を優しく包み、親指で涙を拭く。



 「……お前には、幸せになってほしいんだよ。アオイ…」


 正直言って父と名乗るあの男のことはまだ許せない、憎む気持ちは一寸たりとも減っていない。だけれど、こんなにも情けなく泣いてまで私の幸せを願う男が目の前にいるのなら、彼のために考えてみるのも悪くはない。


 「話だけ…してみる。いつかゆるしたいと思える機会をあの人に与えるから……だからもう泣かないで。」


 「ああ……」


 兄の涙を拭ったあと、私は家の外に出た。




 父と名乗る男はインターフォンの横に凛として立っていた。私が近づくと、彼はすぐに音に反応して私のほうに向いてくれた。


 「君らの都合を無視して、急に訪ねてきて申し訳ない…」


 「…………」


 「えっと…どこかご飯食べに行かないか?アオイは何が好き?」


 「……フッ、娘の好物も知らないのね…私を置いてかなければ、そんな質問する必要もなかったけど。」


 「本当に、申し訳ない……」


 男は土下座でもしそうな勢いで頭を90度深く下げて謝る。


 「ーーーー…はぁー…おいしいお肉なら食べてもいい。」


 「ッ!お、お肉か!わかった、ステーキはどうだ?来るときにおいしそうなレストラン見かけたんだ、そこにいこう!ついて来てくれ、車を近くに止めてきた。」


 「ちょっと!がっつき過ぎ…許したわけじゃないんだから。」


 男は我に返って落ち着きを取り戻す。そして不器用そうな表情を浮かべて続ける。


 「すまない、舞い上がってしまって。行こうか。」




 その後、私は雲谷集さんと食事をするべく、彼の車に乗って共に隣街のレストランへ向かった。


 「ーーーーーーー…うん、夕食はリクと食べて…それじゃ。」


 今日の騒ぎでカザマとリクの夕食を作る時間がなかった。ほっといても勝手に夕食は食べると思うが、念のために電話で伝えておいた。


 「…もう着きそうね。」


 「ああ。2つの町、そんなに離れてないから車だとすぐさ。」

 

 今まではバスでしか隣の街へ行かないので、別の世界へ向かうような長い距離を感じていた。それなのに、そんな気軽にいって来れるなんて不思議。


 「……そう。こんなに近かったのね。」



 レストランに着くと、私たちはスムーズに入店できた。


 なんでもない平日な上に、サラリーマン程度ではとても入れないようなお値段のお店だから、お客さんがあまりいないのだ。


 このお店に入るのは人生はじめてなので、謎の緊張を覚えてしまう。


 「大丈夫かい?」


 集さんは私の緊張を察したのか、背中に軽く手を添えて心配する。


 「さ、触らないで!……あ、いや…」


 「!……すまない。緊張してるみたいだから。」


 「いいから……席に座りましょう。」



 私と集さんはいまいち距離感が掴めず、気まずい雰囲気のまま着席した。


 集さんは慣れた感じで料理を注文していく中、私はメニューに驚いていた。


 「(なにこれ…どれも値段載ってないんですけど……えぇ~怖くて頼めない…)」


 「……………」


 「ご注文はお決まりでしょうか?」


 「えーーと………(ヤバイ、何も決めてない…)」


 「アオイは肉料理が食べたかったね?……すみません、今日のオススメはありますか?」


 「はい、こちらの………」



 なんか助かった。多分私が選べてないのを察して助けてくれただろう。気の遣い方がなんだかカザマにちょっと似ていてムカつく。


 「…ーーーーーはい、では注文は以上ですね。では、ごゆっくり。」


 ウェイターが離れたのを確認してから、私は集さんに聞きたいことをぶつけた。


 「私、回りくどいの好きじゃないから単刀直入に聞かせてもらう。どうして私を独りにした?この16年間、あなたは何をしていたわけ?」


 「ああ、順番に話そう。最初は…そうだな、僕とすみれについての話さなくては。アオイはすみれのこと聞かされてるのか?」


 「うん、母さんの名前…雲谷すみれ。時々墓参りに行ってる。」



 集さんはサングラスを外して、真剣な眼差しで私を直視しながら説明する。


 「そうか……アオイの母さん、すみれは生まれつき体があまり強くない体質だった。定期的に病院へ通い、チェックを受けてもらわなきゃいけなかった。警察方面の仕事をしていた僕はたまたま彼女のいる病院に入院して知り合った。」


 (警察ってこと?)


 つまり体の傷はこの職業のせいでできたものか。


 「今もまだ引退はしていないが…それはまた追々に説明するとして。当時のすみれは相当モテていたから、彼女との結婚はものすごく大変だった。聞かせるような話ではないから詳細は省くとして、俺が仕事で色んな事件が重なったせいで、彼女はより病弱になってしまった。」


 その省略された部分がめちゃくちゃ気になる私であったが、ここはとても聞ける雰囲気じゃない。



 「それでも結婚してしばらく経つと、彼女は子供を身ごもった。」


 「…その子が、私?」


 「いや、違う。その子は……流産した…名前はまだつけてなかった。」


 つまり、私には血の繋がったお兄さんかお姉さんが居たかもしれないってこと?そんな事実今まで誰も教えてくれなかった。


 「流産の件ですみれはかなり弱ったんだ、心も体も……時が経って、すみれはもう一度妊娠をしたが医者にはこう言われた。”おろすか、母体の命を覚悟に産むか”ってね。」


 「………お母さんはなんて?」


 「赤子を産むと決めたよ。そして、彼女は生まれてきたアオイ、キミの顔も声も確かめることがなくそのまま亡くなった。」


 「ーーーーーー……そんな…じゃあ私のせいで…」


 「決してキミのせいではない!…どちらかというと、若いころの彼女に無茶をさせた僕のせいだ。」



 集さんは私の動揺に構わず話を続ける。いえ、動揺しているからこそ話を続けた。


 「君を託された藍さんは、すみれの生前の言葉を汲み取って、あおいという名前を赤ちゃんに付けた。」


 「…どうしてアオイなの?」


 「すみれがアオイを身ごもって入院してた時期があったんだ。その時に彼女はこう言った。”空が掴めそうなほど青くみえる。きっとこの子がいるからこんなにも幸せになれたんだろう。いつかこの子にもこの幸せを味わってほしい”と。だからキミが幸せになれるように、そういう願いを込めてという名前を付けた。」



 私の出生と名前の由来を知ることができたおかげで、なんだか心が少し軽くなった。しかし、それと同時に抱いている疑問も膨張した。


 「お母さんのことと名前はわかった。それで、どうしてあなたは私から離れたの?」


 「…………それは……キミが怖かったんだ。」


 「…こわい?」


 「ああ…すみれは僕にとって最愛の妻だった。文字通り最も愛しすぎた…そのせいですみれを死なせたことへの恐怖と罪悪感で俺は押しつぶされた。自暴自棄になっていた時期に、すみれとそっくりな瞳を持つキミと目を合わせると、彼女に責められる気がした。」


 「…それで、私から逃げたの?」

 

 図星だったのか、集さんは私から目をそらした。彼は目線で16年前の行動を示した。


 「………欧州からの呼びかけがあって、僕は仕事という名目でそれに乗じた。もちろん!すぐに戻るつもりだったよ…」


 「ウソね。戻るつもりなんてなかったでしょ。」


 厳しい言葉に集さんは狼狽える。視線を下に落として苦笑いする。


 「……敵わないなぁ、そういう厳しいところ。本当に彼女とそっくりだ。人としても父親としても最低だ、一人で責任から逃げて楽になろうとして本当にすまなかった……」


 ウェイターは料理を運んでくるも、私たちの険悪な雰囲気に耐え切れず、すぐさま別のお客さんの所へ逃げた。


 集さんも私が怖いからか、先からずっと目線を私に合わせてくれない。


 「………」



 「…顔を上げて、私の目を見て話を聞いて。最後に一つ聞きたいんだけど。」


 「…わかった、なんでも聞いてくれ。」


 集さんは言われた通り、私と目を合わせてくれた。その表情は恐怖と怯えに歪められているが、同時に混じりけのない振り絞った勇気と彼なりの覚悟を感じられる。


 「どうして戻ってきたの?私から逃げ続けることだってできたんでしょ。」


 「……ーーー女の子を見たんだ。事件の捜査の本当に何気ない合間の時間で、おもちゃ屋で親に置いてかれた女の子を……その子の親はちょっとした躾のつもりで彼女から離れたけど、その子にとっては違った。もう金輪際親に会えないかのような泣き方をしていて……」


 「…私と重ねたのか…」



 「ああ、そうだ……ずっとずっとひどいことをし続けたんだって気づいた。そう思った途端、今まで感じていた恐怖は全て罪悪感へと変わった……許してほしいなんておこがましいことは言うつもりはない、だけど今はただ、アオイに幸せになってほしいと思っている。」


 言い終わると集さんの顔からは完全に恐怖の残り香が消え、そこにあったのはどこか温もりを感じさせるような顔。


 「……あなたのことはきっと許せない。」


 「ああ…」


 「でも、いつか……いつになるかはわからないけど、許したいと思うようになっても悪くない………今はそれが限界。」


 「あぁ!それで十分だよ、ありがとう!本当にありがとう…」




 食事を終えた私たちは、集さんの車に戻って帰宅の準備をした。


 「そういえば、集さんは今どこで泊ってるの?」


 「今はそのあたりで部屋が空いてるホテルに泊まってる。仕事再開したら職場の寮とかあればそこに行くつもりだよ。」


 「………ホテルになんか泊まることないよ。」


 「え?」


 「……今日はダメだけど、部屋片付けるからさ…うちで住みなよ。」


 「いいのか?」


 「…うん」


 集さんと顔を合わせてから初めて、彼は緊張が解けて笑顔を見せてくれた。


 「そっか…わかった、日曜日家にいくよ…いや、家に帰るよ。」


 「好きにすれば………ところでそ、その、集さんって呼び方は、へ、変だよね?なんて呼べばいい?」


 「そう言われれば確かに……ダディとか…いや、日本の子はそんな呼び方しないか…アオイくらいの年の子はどう呼ぶんだ?」


 「そんなの知らないよ!呼んだことないんだから!……」


 「…これも私のせいだな。慣れるまでは集さんで大丈夫だよ。」


 「……わかった。」


 今の私たちをカザマが見ていたら、きっと不器用すぎて爆笑されてそう。でも私はすごく嬉しいんだ。


 だってこれが私の、私だけの初めての親子の会話だから。今までずっと望んでいたものを手に入れたから、本当はもっとこの時を味わっていたい。


 「ところで、今年のクリスマス。アオイは風舞くんと何か予定あるのか?」


 ?なにその質問…


 「どういうこと?別にないけど。」


 「そうなんだ。藍さんから聞いた話だと、キミらは付き合ってるかと思ったけど、そうでもないのか。」


 「つつつつ、付き合ってないしー!!!だれがあんな奴と!!だいだい、あいつなんかタイプじゃないんですけど!」


 「なるほど…たしかに藍さんの言う通りだ。好きなんだな、風舞君のことが。」


 「なっ!!話聞いてた?あいつなんか好きじゃないっての!!………それに、カザマの好きな人は私じゃないよ……」


 そう、カザマはリクが好き。


 私に構ってくれるのは、優しくしてくれるのは、私があいつの幼馴染で妹分だから。カザマは私を女として意識なんてしてないよ。


 「…………複雑、なんだな。」


 「うん。」


 「父親ぶるのは嫌と思うから、そこらへんのおじさんの独り言だと思ってくれ。後悔しない選択肢を選びな…一つの選択肢で16年間苦しんだ愚か者もいるんだ。」


 「……自虐がすぎるよ…」


 「すまない。」


 「ううん、ありがとう……クリスマス、か。よく考えてみるよ。」


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