第12話「体育祭とリク」

 体育祭は嫌い。


 暑い上に汚れる。何より運動をしなくちゃいけない。インドア派の私にとって面倒くさいこの上ない行事なのである。


 それでもなんとか昼休みまで乗り切った、残るは午後の部のみ。


 「アオイちゃんはど~こ~かなっ?♪」


 って、違う。つい癖でアオイちゃんを探し始めたが、カザマを探したいと思うようにならなくちゃ。


 アオイちゃんは私にそうしてほしいと思っているから。



 肝試しのとき、どうしてアオイちゃんは本当の事を私に言ってくれなかったんだろう。


 本当はカザマが好き。彼と付き合いたいって。


 それとも本気で私とカザマはお似合いだと思っているの?

 

 まあ、どちらにしても変わらない。私は今までと同じくアオイちゃんだけのために動く。彼女は私とカザマが付き合うことを望むならそうする。


 「お久しぶり、リクちゃん。お父さん母さん、昼ごはん一緒に食べようって。」


 「あ!龍太郎おじさん!おっひさ~…それと、モーガンさん!」



 「ん?リクね。バスで会った以来か、元気?」


 探偵のモーガンさん。以前バスで偶然会ったことと別荘を貸出してくれたこと以外は覚えてない。たしか本名を教えてくれたけど忘れた、ほかの人と話すときに聞けば問題ないか。


 「はい!別荘使わせてくれてありがとうございました!」


 「あら、といたしまして。また使いたいとき連絡くれれば好きに使っていいよ。」


 モーガンさんは龍太郎おじさんと一緒にみんなが集まる場所へ向かい始めたと思ったら、急に私のほうに振り向いてチャーミングな笑顔を見せながら話す。


 「万華理世、ね!覚えてくれるとうれしいな。」



 「は、はい!」


 まさか名前覚えてないことを見抜かれていたとは、恐るべし洞察力。今後は彼女の名前をしっかり覚えよう…

 

 それはそうと先からアオイちゃんの姿が見つからない。周りのキョロキョロする私の所にカザマがやってくる。


 「カザマ、お昼二人で一緒に食べよ。」


 「それよりもアオイのとこ行って3人で食べようぜ。」


 「え、アオイちゃんどこにいるか知ってるの?」



 「知ってるも何も、体育祭とかの行事はあいついつも一人校舎裏でメシ食ってるじゃん。」


 それはもちろん知っている。中学校ならアオイちゃんの居場所はわかるが、今年は彼女の初めて高校で過ごす体育祭だから、今彼女はどこにいるかがわからない。


 「……アオイちゃんがそうしたいんでしょ。ならほっといて、二人でごはん食べようよ。」


 そのほうがアオイちゃんのためになる。きっとそう。


 「いや、三人で一緒だ。」



 「いいじゃない?たまには。周りから見たら私たちは付き合ってるようなもんだよ!」


 「だけど、付き合ってはいない。周りのやつなんてどうでもいい。それにアオイが一人でご飯食べてる理由くらい知ってんだろ。」


 どうしてカザマはわかってくれない。アオイちゃんは私とあなたが付き合うことを望んでいる。私があいつのでいることを望んでる!

 

 そうでなくてもこうする必要はあるのよ。



 なのにどうして、アオイちゃんを苦しめようとするの?


 「そんなの知ってる、私はあいつのお姉ちゃんなんだよ!私たちを見てるのがつらいんでしょ、だったらほっとけばいいじゃない。そのほうが傷つかないもの!!」


「……リク、お前変わったな…昔なら、俺より先にアオイを探してたはずだ。」


「あなたたちは変わらなすぎなのよ。他人の親を見なくても、両親が居ない現実は変わらない!それなのに、いつまでもそんな子供みたいに隠れてるわけ!」



 「……もういい。行かないなら俺がいく、アオイを独りにはさせない。」


 カザマは私の手を振り払う。その力の強さに私は驚いた。


 今までカザマと勝負するときはいつも年上の私の勝ちだけれど、それは彼が今まで手加減してくれたからだと、今知った。


 「なんでそんなアオイにこだわるわけ?私を見なさいよ!アオイのことちゃんと見てないくせに!!」


 「見てるよ。ちゃんと見えてないのはリクのほうだよ。」

 

 カザマは構わず私に背を向けて歩き出す。


彼の後ろ姿に私は怒りと悔しさを感じると同時に、なぜかほんの少しうれしい気持ちを覚えた。


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